12:名無しNIPPER
2016/05/03(火) 22:48:32.19 ID:G1lrEIoLo
幸子のカワイイトークを流していると、先に部屋を出ていた蘭子が事務所のビルの敷地から出てすぐの辺りで、落ちかける夕陽を眺めていた。ボクらを待っていたのだろうか。
「来たか、我が同胞達よ。落日の彼方へその身を闇に染めん!」
「?? あ、蘭子さんも寮生活されてるので同じ帰り道ですよ。寒い中待たせてしまいましたかね……あれ、出身はどちらでしたっけ?」
「我が生まれ落ちしは火の国よ!」
「……あぁ、熊本かな」
「ひ、火の国よ!」
ボクが答えると、こだわりなのか言い直す蘭子だった。
「熊本県って火の国とも言うんですね? では三人で帰りましょうか。飛鳥さん、蘭子さんもボクについてきてください!」
鼻歌まじりに幸子がボクらを先導する。帰り道ぐらいとっくに覚えているんだけどな。
しかし東京は三人が横に並んで歩くには狭い路地が多く、いずれにせよ誰かが前を行くか後ろをついてくる形になる。
今度は蘭子と並んで歩いた。それにしても、誰かと一緒に帰るなんていつ以来だろう。
「我が友から聖なる預言を授かっていたのか?」
遅れてきた理由を聞いているのかな。まぁ、これぐらいはね。
「何でもないよ。遅くならないうちに帰れってさ」
「宵闇の広がる刻限までもう僅かね。我らが花園に辿り着く頃には月光が降り注ぐであろう」
どうにも闇というワードの使用頻度が増えている。そもそも好きそうだな、ボクも嫌いじゃない。
蘭子はそれっきり口を開かず、周囲のノイズに不思議とかき消されない幸子の鼻歌がボクらを包み込んでいる。ボクにとっては知り合ったばかりの二人と会話の続かない空間だというのに、居心地はさほど悪くなかった。
居心地、か。
独りに慣れるうちに気にすることもなくなった、とボクは思い込むようにしていたんだ。そういう余計な煩わしさとは無関係でいたかったから。
他人と距離を置く理由なんてそんなものだろう? 解るヤツにだけ解ってもらえばいい。ボクにとってはそれが、プロデューサー……なのかもしれない。少なくとも、彼のおかげで孤独を感じることは減ってきている。
そんな彼によって今日、新たに生まれた繋がりからは一体何を得られるのかな。どうせなら楽しいものだといいんだけど。
……。孤独にはもう、戻れない。出会ってしまったから。彼と。彼らと。
そうと決まれば欲張ってみるか。傍観者に徹していたつもりが、ここからは観測者の領分だ。
セカイが一歩、動き出す。
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