23:名無しNIPPER[saga]
2016/05/06(金) 21:49:30.08 ID:+Oro3rOyo
「どうだ、蘭子?」
「ふむ……微々たるものだが、熱き波動を感じる……(ちょっとだけ熱があるかも……)」
「……本当に体調がよろしくなかったんですね。どうしてボクに言ってくれなかったんですか?」
口をとがらせた幸子は怒っているようには見えず、見上げる瞳は優しげにボクを映していた。蘭子は蘭子で何かを取り出そうとしている。さっき言っていたホッカイロに違いない。
そうか、あの時ボクは浮かれていたのではなく、浮かされていたというのか……熱に。笑えない冗談ではあるが、それなら合点もいくというもの。
言われてみると身体があまり言うことをきかないような気がしてきた。ラジオを聴いたりで夜更かしをしてるせいかな。しばらく睡眠時間を確保した方がよさそうだ。
「参ったな……。俺がしてやれそうなことは……うーん」
「まったく、こういう時は気が利きませんねぇ。寮まで送って差し上げたらいかがです?」
「そ、そうだな。急いで車出してくるから少ししたら下に降りてきてくれ」
ボクを置いて話が大げさになってきている。このまま帰れないことはない、彼を煩わせるわけには……。
車のキーを手に急ぎ足で出ていこうとする彼の背中を追おうとして、幸子に止められた。ボクよりも小さな身体が屹然と立ちはだかる。
「駄目ですよ、こんな時ぐらい大人しく言うことを聞いててください。プロデューサーさんもそうしてくれた方が安心するでしょうから」
「真に安息を得るのはそなたではないか?(幸子ちゃんもこれで安心だね!)」
「あーあー、何を仰っているのかわかりません! ボクは将来的にボクの足を引っ張られないために懸命な判断をしたまでですよ!」
その台詞はただの虚勢で深い意味などない、解っていたつもりなのにボクは二人に謝りたくなった。足を引っ張りかねないのは事実だし、ボクが弱っている証拠だろうか。
「……ごめん」
長く孤独に過ごしていると、他人にどう謝っていいかも忘れてしまうみたいだ。
たった三文字の言葉なのに謎めいた重みが出てしまった。言う方も、おそらく受け取る方も。
「うぐ、べ、別に飛鳥さんを責めているわけではなくてですね? ほら、病は気からというのですから、いつものようにキリッとしてればいいんですよ!」
自信に満ち溢れた態度から一変あたふたと狼狽える幸子は、なんだか見ていて心が安らいだ。素直じゃないな……人のこと言えないか。
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