過去ログ - 飛鳥「ボクがエクステを外す時」
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26:名無しNIPPER[saga]
2016/05/10(火) 23:29:51.55 ID:/gCBb+6Yo



「前から思ってたんですけど、飛鳥さんっていつも自室でお料理してるんですか?」

 プロデューサーに寮まで送ってもらった後、蘭子と一緒に部屋の前まで付き添ってくれた幸子が問いかけてきた。
 料理、か。ボクの家庭スキルはいずれも14歳の一般レベルといっていい。つまり、家庭科の授業で習った程度。

「いや、していないよ。どうして?」

「食堂で見かけたことがなかったもので。いつもご飯はどうされてるんです?」

「魔力の源を供給せねば、その身を蝕む魔を祓えぬ……(ちゃんとご飯食べないと、治るものも治らないよ……)」

「……適当に、コンビニとかで買ってきてるさ。霞だけで生きていけるほど徳を積んではいないからね」

 食堂の雰囲気はボクのセカイとは相容れなかった。あの空間に独りで食事をしに行く気にはなれず、同じ独りなら自室で済ませてしまいたい。
 孤独なボクを夜の闇は分け隔てなく包み隠してくれる。たとえ目的地が目的地であっても道中でセカイに浸る時間は充分にあり、夜に外出するのは好きだった。あまり遅い時間はまだ歩きにくいけれど。
 ……いや、もはやボクはここでも独りではないんだったな。習慣になっていたから思考が及ばなかった。

「飛鳥さん、成長期にそんな偏った栄養を摂っていては大きくなれませんよ?」

 ボクより幾分も背が低い幸子に説得力があるかどうかは甚だ疑問だ。
 それに栄養ならサプリメントでも摂った気にはなれる。効果のほどは知れないので敢えて深く追究せず、プラシーボ効果でも作用すればいいのだが。自分を騙すことには慣れている。
 そういえば、ここに住むようになってから少し痩せたかな。体を作るのが食なら、体調管理に続きボクはアイドルとしての職務を放棄しているのだろう。食だけに……やめておこう、お叱りを受けそうだ。誰に?

「……もういいかな? 悪いけどその話は今度に――」

「絶対だめ! 私、寮母さんに許可をもらってお料理運んでくるから待ってて!」

 ……お叱りを受けた。
 誰に? 今のは……蘭子?
 頭で整理する間もなくぱたぱたと小走りでいってしまい、またもボクと幸子は蘭子の背中を茫然と見送ることしか出来なかった。

「たまに、というか割と標準語に戻りますよね、蘭子さん」

「あ、あぁ。でも今のは……」

「あなたのことを思って、でしょうね。フフーン、そういうことですから安静にしていてください♪ ボクもこの辺で失礼しておきましょうかねぇ」

 そうして幸子もボクを残して去っていった。観念しろ、というわけか。
 あの空間で食事する気分にはなれなかったし、これからまた外出して夕飯を調達する気力もなかったから都合はいい。しかしどうして蘭子はそこまでしてボクに?
 ……自分の部屋の前で突っ立ってないで、まずは部屋に入ろう。廊下を誰も通らなくてよかった。


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