3:名無しNIPPER
2016/05/03(火) 22:08:56.33 ID:G1lrEIoLo
「こんなところにいたのか、飛鳥」
事務所のあるビルの屋上で、息を白くさせながら流れる雲の行方を追っていると聞き慣れた声がした。
時間になるまでセカイに浸っていたかったボクは、突然の来客に驚きこそすれ辟易はしなかった。目当てがこの場所ではなくボク自身にあるのだから。
どうせもうすぐ顔を合わすだろうに、よく探し当てたものだ。緩みそうになる口元を引き締め、振り返る。いつものスーツ姿がそこにあった。
「やぁ、プロデューサー。どうしたんだい、わざわざ迎えに来たという風には見えないね」
「次の仕事が決まったんだよ。早く教えてやろうと思ってさ」
「フフ、仕事もボクも逃げやしないのにご苦労なことだ。伝えるだけなら携帯電話でもよかったろう」
「それだと味気ないだろ? まあ素っ気ない返事がくるかもとは思ってたけど」
「理解っているじゃないか。……理解っているといえば、よくボクがここにいると理解ったね。ボクらの波長が引き合わせたのかな」
「ああ、前に高いところが好きだとか言ってなかったっけ? まーだ肌寒いし、まさか本当にいるなんてなあ。こんなとこで何してたんだ?」
「ちょっと、ね。あぁ、キミと出会った日のことを思い出していたよ」
アイドルという新しい世界に誘われた日。傍観者に徹していても独りでは知りようもなかった世界へと、ボクを連れていこうとするとはね。
まさに青天の霹靂ってヤツさ。
ボクはちょうど新しい居場所を求めていた。でもそんな都合の良い展開はボクのよく知る世界では起こりえない。それなのにこうして出会ってしまったのだから、あの日は世界に抗うボクが初めて報われた記念すべき日ともいえる。
諦観していたつもりのくせに、心のどこかで求めてやまなかったものが手に入りかけている予感。その夜は眠れなかったものさ。そんなものだろう?
もっとも、彼は仕事の一環として偶然目に留まったボクをアイドルに誘っただけなのだろうけれど。
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