38:名無しNIPPER[saga]
2016/05/18(水) 21:35:30.23 ID:wEJbruLdo
彼のもとを離れるなんて想像すらしたくない。ボクの居場所はここなんだ。ボクの知らない世界を彼と、彼らと歩んでいきたい。そのためなら、ボクは。
……。
ボクがボクであるかどうかを確認するはずが、ボクでいなければならないという枷を課されることになろうとは、ね。
楽しいばかりじゃない、彼がいつか口にした言葉をなぞる。
「クシュッ」
セカイに浸りすぎて、いよいよ身体が冷えてしまっていることも忘れていたらしい。
またくしゃみをしてしまったボクに呆れたのか、彼は短い溜息を吐く。
「あーもう、だめだ。中入るぞ!」
ボクの身を案じて引っ張ってでも屋内へ連れていこうとする彼の手は、しかし何も掴むことなくボクの腕の前で静止した。
躊躇っているんだ。昨日、彼の手をボクが反射的に避けてしまったから。
「あ、いや、これはだな……」
「……。理解ってるよ」
腕ぐらい触れられてもいい。そう思ったけれど、彼の前では、彼が導いてくれたこの世界では「二宮飛鳥」でいなければ。彼の目に映るボクが「二宮飛鳥」でなくなった時、きっと魔法が解けてしまう。
それだけは避けたい。
……ん? なぜ避けたいのだろう。彼のもとを離れたくない理由……。
先ほども考えていたように、彼がくれた居場所を気に入っているから? 彼女らと過ごす世界も悪くないから? 孤独のセカイにはもう戻りたくないから?
――彼とはまだ解り合えていないから?
ボクの変調の理由は、こういうところにあるのかもしれない。でもそれを考えるのは後回しにすべきだろう。寒さが身に染みてきている。
「……往こうか、プロデューサー」
名残惜しさに見て見ぬ振りをして、彼の手の温もりを知ることなくボクは屋上を後にした。
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