45:名無しNIPPER[saga]
2016/05/18(水) 22:07:41.97 ID:wEJbruLdo
「飛鳥さんはありますか? プロデューサーさんとオフの日に過ごしたことは」
「ボクは……ない、かな」
アイドルになってから、アイドルとして彼と接するのが当たり前だと思っていた。ボクと彼はトモダチになった訳ではないのだから。
だというのに、ボクは二人のことを羨んでしまっている。
「二宮飛鳥」らしからぬ感情がボクを惑わそうとする。
……。
どうして?
「あの……プロデューサーさんも忙しい方ですし、ボクたちより日の浅い飛鳥さんにはその機会がまだ巡ってきてないだけですよ。気にしないでください」
何故か幸子にフォローされている。別に落ち込んだりとかしていない……んだけどな。ただ迷いが生じてしまっているだけで。
「……幸子ちゃん。遊園地、どうだった?」
「え? えぇ、そうですねぇ。絶叫マシーンが面白かったようなそうでもないような。乗ってる最中に水を掛けられる仕組みになってまして、プロデューサーさんはちゃっかりレインコートで濡れないようにしてたんですよ! ボクだけ濡れちゃいましたが……まぁ、水に滴るカワイイボクを見たくて黙ってたなら仕方ないですかね。フフーン!」
相変わらずプロデューサーのことになると幸子は口がよく回るようだ。蘭子が上手く乗せているのもあるが、おかげで頭の中がごちゃごちゃしているのを気取られずにいられている。
幸子の話を聞いている振りをしながら、この感情の正体に何とか一つの結論が出そうだった。
ボクは……彼の特別でありたかったんだ。
彼にとってのボクは担当アイドルの一人でしかないのだろう。ボクにとっての彼は特別な存在だというのに。出会えたことに満足してしまっていたが、それはボクの視点に過ぎなかった。
彼女らのおかげで周りのことも少しは見えるようになってきている。だからボクは、彼が見せるいつもの笑顔を他の誰かにも見せていたことや、ボクのように彼を特別視しているアイドルが何人もいることに気付いてしまった。
ボクは彼に、ボクのことを特別に感じて欲しかった。ボクがそうであるように。
じゃないと……不公平だろう?
「――それでせっかくプロデューサーさんにもボクをカワイく仕立てるチャンスをあげたのに、結局選んでくれなかったんですよねぇ。プロデューサーさんならボクのカワイさを引き立てるお洋服ぐらい、すぐ見つけられると思ったんですけど。意外とプライベートではこういうことに慣れてないのかもしれませんね?」
「我が礼装はグリモワールに示されし魂の輝きを具現させたもの……しかし友が自ら我へと選定せし召し物というのも興味が尽きぬ(私が描いた絵から衣装をそのまま作ってもらったこともあるけど、プロデューサーに選んでもらったお洋服っていうのもいいなあ)」
「グリモワ……? 蘭子さんもプロデューサーさんとお買い物とかどうですか?」
「む、無理無理無理! 絶対顔見れないよ……だ、だって二人きりでしょう……?」
「二人きりの方が都合がいいと思いますけど? 独占できますしね!」
「独占……!?」
「飛鳥さんも二人きりの方がいいと思いません?」
「ん、あぁ……そうかもね。それより、もうお昼も近いけどどうしようか?」
頭に入ってこない会話を打ち切りに入る。あるいはあまり聞いていたくなかっただけ、とも。
「うえぇ!? ボクとしたことが、話に夢中になってました……。プロデューサーさんもどうして電話に出てくれないんでしょう? 今度こそ……!」
「天に使えし者の内に抱えた秘め事とは一体……?(幸子ちゃん、何か隠してる?)」
「いずれ解る時が来るさ。蘭子にも、幸子にも、ね」
結局繋がりはしなかったものの、幸子が気軽にオフの彼へ電話を掛けていたのがずっと心に残った。
仕事の関連以外でボクは彼に電話をしたことも、ましてやされたこともない。
それなのに、その日一日、あるはずのない着信がボクのもとに届いたりはしないか、何度も携帯電話を確認してしまった。
そうこうしてるうちに声を聴きたくもなったけど、こちらから掛けることも出来ないまま、最後のオフはボクらしくなく過ぎていった。
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