68: ◆KSxAlUhV7DPw[saga]
2016/05/31(火) 22:48:54.83 ID:D9m/pSOOo
「……お二人も、プロデューサーさんが好き、と。そういうことで……いいんですね?」
返答を待つ前にこちらから打ち明けたのがよかったのか、幸子は幾分落ち着きを取り戻していた。もう両手で覆う必要もないらしく、ボクらを伏し目がちに探ってきている。
「あぁ。そういう幸子は?」
「……」
虚空へと視線をさまよわせる幸子はどことなく憮然としながら、それでも黙秘を貫こうとはしなかった。
「ボク……は、そうですね。ボク、両親のことが大好きなんです」
頭の中を整理するためであろう。幸子はボクの知らない彼女の物語を紡ぎ出した。
両親。あの写真立てに飾られた、幸子の後ろに映っている二人の男女のことだろうか。
「小さい頃からボクのことをカワイイカワイイって育ててくれて、そんなボクはきっと誰よりもカワイイんだろうなって思ってました」
相当溺愛されて育ったに違いない。世界一を自称するほど自分のカワイさを豪語するくらいだから。
……。思ってました、か。
「でも、少し外に出てみるとボクをカワイイって褒めてくれる人はあまりいないんですよ。思っているだけで口にしないのか、本当に思ってないのか、それはわかりませんが」
可愛がられて当たり前、そんな都合の良い彼女のセカイを世界は認めなかった。
「両親が嘘を吐いている……とは思いませんでした。ボクをたくさんカワイがって大事に育ててくれた、大好きな両親を嘘吐きになんてしたくありません。ボクはカワイイんです。だからボクは、多くの人にカワイがられるアイドルになりました。誰かがボクをカワイイと褒めてくれるようになることが、育ててくれた両親への恩返しにもなると信じてますから」
幸子が「輿水幸子」たる所以はそのような生い立ちから来ていたのか。
そうと語ってくれている少女は今、ボクの知っているいずれの幸子のようにも見えなかった。
仮面が外れているのか、新しく付け直したのか。ボクにそれを判断する術はない。
「それなのに」
思い出すように幸子の頬へ赤みが差した。
「本当はもっと難しいものだと思っていたんですけどね……。プロデューサーさんがボクのことをオーディションで採用してくれて、早くボクのファンになってくれる人からだけでもカワイイって言われるようになろうと思ってたら」
その先の展開を、ボクは何となく察した。彼が絡んでいるからかな。
「……ボクの最初のファンって言ってくれたプロデューサーさんが、手放しにボクをカワイがってくれるんですよね。今となっては意地悪ばかりですけど。その、なんだか両親と一緒に居る時のような気持ちがしちゃって、つい……甘えちゃうんですよ! 悪いですか!」
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