過去ログ - 飛鳥「ボクがエクステを外す時」
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79: ◆KSxAlUhV7DPw[saga]
2016/06/05(日) 22:08:32.51 ID:y3rgRIdpo

「こうなったら直接聞いてみましょうか、プロデューサーさんに」

 食堂で二人と朝食を取り、事務所へ向かう途中のことだった。幸子と蘭子の後をボクが追う形で歩いていると、前触れもなく幸子が同意を求めてきた。
 もしかしなくても昨日の議題、彼の好みなタイプについての続きだろう。

「し、しかし……禁忌に触れるのでは?(聞いてもいいのかなあ?)」

 聞くのは怖い、けど気になる、そんな態度を貫く蘭子はやはり慎重だった。

「飛鳥さんはどうですか? 気になりません?」

 興味はあるが、答えてくれたとしてそれが真実なのかは判断出来ない。しかし問わなければ彼を知ることもまた出来ない、か。
 ……ボクは彼に、どんな回答を期待しているのだろう。

「どうしても、と言うのであれば聞くだけ聞いてみたらどうかな。彼も答えたくなければ答えないさ」

「それもそうですね。最終的にはボクみたいなカワイイ子しか目に入らなくなるでしょうけど、今のプロデューサーさんに聞いてみるのは面白そうです!」

「むぅ……我が同胞達と共になら、我も恐れず真実の鍵を開こうぞ!(二人がその気なら、私も聞いてみたいな!)」

 満場一致らしい。結局こうなったかと思う一方で、こうなることを待っていたようにも思う。あとは幸子に任せよう。
 そうと決まると、後は他愛ない話をしながら事務所を目指した。蘭子は普段の調子で話しているが、どことなく会話がスムーズに弾んでいる。幸子が彼女の言葉を理解しつつあるからだと信じたい。

「……着きましたね」

 事務所まで辿り着くや否や、ドアを開ける前にこれから大仕事を控えているといった風に幸子が身を引き締めていた。興味本位とはいえ何が飛び出してくるかも解らないんだ、幸子も緊張していると見える。
 ボクと蘭子もあまり幸子のことを言えたものではなかった。先陣を切ろうとするボクらよりも小さな背中が今はたくましい。

「お、おはようございます! 今日もカワイイボクが来てあげましたよ、プロデューサーさん!」

 彼はもう出勤しているようだ。幸子に続いて中へ入る。

「おう、今日も仲良く一緒に来たのか。おはよう三人とも」

 デスクに座りPCのモニターから顔だけをこちらへ覗かせた彼を、一目見ただけで心臓が跳ねた。
 昨日の今日だ、過剰に意識してしまうだろうことは予想していたが……予防線をはるかに突き抜けていった。
 胸が高鳴ること自体は今までもあったのに次元が変わってきている。改めて、ボクは人を想うということに不慣れなのだと痛感する。

「……どうした? なんで誰も目を合わせてくれないんだよう」

 彼を直視出来なかったのはボクだけではないらしい。なんだか安心した。

「それよりですね、プロデューサーさん。ちょっとお聞きしたいことがありまして」

 いつもよりぎこちない動きでプロデューサーに近づいていく幸子を見送って、ボクと蘭子は自然を装いながらソファに座った。装う時点でどこか不自然ではあるのだが、幸子に気を取られている彼はこちらには意識が回らなかったようだ。
 ……なんだか緊張してきた。隣に座る蘭子もそわそわしている。
 こんなにも誰かによって心をかき乱されるのなら、孤独に過ごした日々のなんと穏やかなことだったろう。
 穏やか過ぎて何もない毎日よりはずっと充実しているが、期待を裏切られるのが常なこの世界でボクは欲張り出している。つまらない世界なんかいらないと抵抗していたボクは、何処へ往ってしまったのか。


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