80: ◆KSxAlUhV7DPw[saga]
2016/06/05(日) 22:10:20.28 ID:y3rgRIdpo
「俺に聞きたいこと? なんだ?」
「えー、そのぅ……」
なかなか言い出せずにいる幸子があちらこちらへ視線をさまよわせている。
一旦引いた方が、という念が通じたのか、幸子はぶれまくりの焦点をあらぬ方向へ定めると、
「……コーヒー、飲みます?」
彼が常用しているマグカップを手にしてそんなことを言い出した。
「ん、それが聞きたいことなのか? じゃあお願いしようかな、飛鳥と蘭子は?」
「え、えぇ、我にも捧げるとよい。白き雫と甘美なる光の粒子を忘れてはならぬぞ(う、うん、私も貰おうかな。ミルクと砂糖もつけてね?)」
「……頂こうか。ボクはブラックで頼むよ」
一息つくにはちょうどいい。幸子の様子からして土壇場で機転を利かせたわけではなさそうだが、結果オーライってヤツだ。
彼のマグカップを手にしたまま、事務所に置いてあるコーヒーメーカーの前までそそくさと移動する幸子。そこでまたも固まっている。今度はどうしたというんだ。
「プロデューサーさぁん……」
「どうした、そんな捨てられた子猫みたいな声出して」
「これ、どうやって使うんですか?」
……使い方を知らなかっただけか。
実家で家事をしたことがないと言っていたし、まぁ無理もない。
「もしかしてそれの使い方を聞きたかったとか? 先にそう言ってくれればいいのに、幸子はカワイイなあ」
「このタイミングで褒められてもあんまり嬉しくないですよ! それで、どうしたらいいんですか!」
手の掛かる子供をあやすように、彼は柔和な面持ちで幸子の面倒を見に席を立った。
「わかったわかった落ち着け、俺がやるからよく見てろよー。これで好きな時にコーヒー飲めるな、幸子」
「ボクはそこまでコーヒー好きでもないですが、プロデューサーさんがどうしてもボクの淹れるコーヒーが飲みたくなった時のために覚えてあげてもいいです!」
「それが物を教わる態度か? ははっ、ほらいくぞ」
慣れた手付きでペーパーフィルターを折り、人数分のコーヒー豆を挽いていく。
彼がコーヒーメーカーを一から使用しているところをこうも注目したことはなかったので、その一挙手一投足に目を奪われた。
ボクも使う時にもたつかないよう、あの光景を焼き付けておこうかな。そう、そのためにボクは彼をじっと見つめていたに違いない。
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