過去ログ - 飛鳥「ボクがエクステを外す時」
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81: ◆KSxAlUhV7DPw[saga]
2016/06/05(日) 22:11:51.24 ID:y3rgRIdpo

「水を入れて……と。あとは作動させて抽出してくれるのを待つだけだ。簡単だろ?」

「ふむむ、手間が掛かるんですねぇ。ボタン押すだけで出てくるようなのはないんですか?」

「事務所にドリンクバーでもつける気か? そりゃあれば便利だろうけど、さすがになあ」

 苦笑しつつ、コーヒーが抽出されるのを幸子と並んで待ち構える彼にいつもと変わりはない。変わったのはボクの彼に対する見方だ。
 何でもない日常のことでもボクのセカイに彩りを与えてくれる。そんな存在を、定点観測せずにはいられない。
 どうして彼が気になるのか、彼を知りたいのか、彼と――解り合いたいのか。行動原理を具体的に自覚している今と以前とでは雲泥の差だった。

「ほら、出来上がり。注ぐくらいはしてみるか? 熱いから気を付けろよー」

「フフーン、それくらいはボクにだって出来ますとも! あ、プロデューサーさんはミルクとかお砂糖はどうしてます?」

「その時の気分によりけりだな。大抵ブラックで飲んでるけど……いけね、つい苦めにしちまった。飛鳥、せめて砂糖入れておいた方がいいぞ」

「フッ、キミがいつも飲んでいるのがそれだというなら、是非ありのままを楽しませて貰おうじゃないか」

 苦いのは得意じゃないけれど、彼と同じものを飲んでみたい。
 彼が淹れたコーヒーなら味わって飲める。……たぶん。

「忠告はしたからなー? じゃあ幸子、俺は席に戻ってるからよろしくな」

「任せてください! 蘭子さんとボクの分はミルクとお砂糖を入れて、と」

 コーヒーメーカーの側に備えてある共用のものを含めた四つのマグカップをトレイに置き、それぞれへ丁寧に注いでいく。香りの良さそうな湯気が立ち上った。

「……。プロデューサーさんのはそのまま持っていった方がいいですよね」

「俺だけ手渡しかい! お盆を片手に飲み物を持ってきてくれるカワイイメイドさんはいなかったんだな……」

「片手!? 四人分をボクのか弱い腕で運ぶのは途中でこぼしてしまわないか……つ、次の機会まで待って頂けますか!?」

「いや、別に片手じゃなくたっていいんだけどさ。でも楽しみにしてるよ」

「むー、どっちなんですかまったく。そんなにカワイイボクの優秀なメイドさん姿が見たいのなら、早く言ってくれたらいいのに……どうぞ」

「ありがとな。せっかく幸子が持ってきてくれたんだ、じっくり味わうとするよ」

 ぶつぶつと不満を漏らしたり彼の一言で機嫌が直ったりしている幸子はどうやら、元々の目的が何だったのかそっちのけでコーヒーのことに勤しんでいた。
 メイド、か。ありふれた属性ではあるが、それだけ彼もまた好みだったりするのだろうか。

「お二人もどうぞ、飛鳥さんのはこれですね。……本当に飲むんですか、こんなに真っ黒な飲み物を?」

 空いてるソファに座り、トレイをテーブルに置いてコーヒーを配る幸子がなおも一つだけ黒く染まったマグカップを覗き込んでいる。

「混沌をも飲み込む漆黒……我の手にも余るやもしれぬ(私もこれは飲めなさそうだなあ……)」

「いいんだ、ボクもこういう気分なんでね」

 何てことの無いようにマグカップを受け取り、淹れたての香りを楽しんでみてから火傷に気を付けて少量のコーヒーを口に含む。
 …………。
 ……………………。


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