過去ログ - 飛鳥「ボクがエクステを外す時」
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83: ◆KSxAlUhV7DPw[saga]
2016/06/05(日) 22:18:29.30 ID:y3rgRIdpo

「……えっ?」

 不意に名指しされ、間の抜けた声が出てしまう。
 ボクを、何だって?

「お前達なら大丈夫だと思ってるけど、特に飛鳥は安心できる。こういうことに興味なさそうだもんな、飛鳥は」

「…………」

 彼の目に映る「二宮飛鳥」は、そういうヤツなのだろう。
 あぁ、そうだ。ボクはそんなものに……恋愛沙汰なんかに興味を持っていた覚えはない。持っているとすればつい最近、ほんの少し蓋を開けてみた程度のちっぽけなものだ。
 彼は「二宮飛鳥」を言い当てている。彼がボクを見てくれていることの証左で、歓迎すべきことだった。
 そう、ボクにとっては喜ばしいことなんだ。
 だから……蘭子、幸子。ボクのためにそんな顔をしてくれなくていい。
 ボクまで何かが、込み上げてきそうだ。

「……あぁ、そうさ。そうだとも。よく理解っているじゃないか――」

 彼にまた一つ理解された「二宮飛鳥」として、震え出す声を引き絞る。

「プロ、デュー…………」

 同時にそれは、彼へ想いを寄せるボクを否定されたことに他ならなかった。

 喉元は熱く焼け焦げ、声が出ない。
 気が付けば、温かい何かが頬をつたって零れていた。コーヒー……とは関係なさそうだ。
 こんなことで――いや、こんなことだから、溢れてしまったのだろうか。
 人を想うことに慣れてないボクでも、人に拒絶されるのは慣れているつもりだったんだけどな。

「飛鳥ちゃん……っ!」

 蘭子がボクの肩を優しく抱こうとしてくれた。
 幸子は幸子で、プロデューサーにいつでも食って掛かりそうな見幕を垣間見せたが、そうすることが誰のためにもならないことを弁えており、ただただ葛藤に耐えているようだった。
 そして、彼は……。

「……飛、鳥?」

 目の前にいる既知の14歳の少女が違う生き物にでも見えたのだろう。
 唖然としている。ボクを見て、彼が困惑している。
 ……何をやってるんだボクは。こんなところを見られたら、彼にとってのボクが「二宮飛鳥」ではなくなってしまう。
 魔法が解ける……解けたらボクは、ここにいられなくなるのだろう。

「……何でも、ないよ。蒸気が、目に染みたかな」

 匂いなんてとっくに解らなくなっていたコーヒーの湯気を大げさに振り切り、その勢いでボクは立ち上がる。
 落ち着かせようとしてくれた蘭子を驚かせてしまったかな。ごめん、気が回らなくて。
 このままここにいては、彼との距離が離れてしまいそうだから。

「外の空気……吸って、くる」

 焼けつく喉でそれだけを残し、ボクははやる気持ちを抑えゆっくりと急いで彼と彼女らのいる事務所から逃げ出した。
 ボクの名前を呼ぶ声に、聞こえない振りをして。
 涙を零してしまわないよう、上だけを向いて。



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