過去ログ - 飛鳥「ボクがエクステを外す時」
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86: ◆KSxAlUhV7DPw[saga]
2016/06/08(水) 23:38:47.99 ID:6KGN/Wqko

「……」

 静けさが心に突き刺さる。
 彼と過ごすセカイに、こんな痛みが伴うなんて。
 返事はすぐには返ってこなかった。彼は一度失敗している。ボクにかける言葉を、入念に模索しているのだろう。
 十数秒、あるいは十数分経ったろうか。
 そうして彼から返ってきた言葉は――

「わかった。先に戻って……待ってるよ」

 決定的だった。
 遠ざかっていく革靴の足音が、ボクに別れを告げてくる。
 彼が待っているのは「二宮飛鳥」であり、ボクではない。ならば、ボクは早く「二宮飛鳥」に戻らなければ。
 ……戻らなきゃ、いけないのに。

「……ぅ、ううぅ……っ」

 ついに堪えきれなくなり、決壊した。

「うぅ、ぐすっ…………くぅっ……!」

 独りでも強くいられるよう、ボクは仮面を付けていた。
 外れてしまえば……こんなものさ。なんて弱いんだろう、ボクってヤツは。
 結局ボクは彼とは解り合えないんだ。プロデューサーである彼にとって、「二宮飛鳥」という偶像にボクはいらない。この想いも、感情も、胸に秘めることすら許されないのだから。
 頭では解ってた。だが心では解ったふりをしていただけだった。そのことがこうして光の粒となり嫌というほど露わになっている。それは強くあるためにずっと隠されてきたボクが、「二宮飛鳥」へ叫んでいる証だ。
 この痛みを、苦しみを、哀しみを。
 彼と出会い、彼に惹かれ、彼とセカイを共にすることを望み、そのために彼と解り合いたい――
 そんな願いが叶ってはいけないのか、と。やり切れない気持ちを叫んでぶつけてくる。

 ……でも、もうどうしようもないだろう?
 彼は「二宮飛鳥」を待つと言い残して立ち去ったんだ。今さら仮面の下に隠されてきたボクが出てきたところで、お呼びじゃない。

『ボクはね、プロデューサー。変わっていくセカイにそれまでのボクが置き去りにされていないか、何故だか不安なんだ。今ここにいるボクは、キミと出会った頃のボクといえるのか……。ボクはボクで在り続けられているだろうか』

 あぁ、そんなことを彼に問うたこともあった。
 仮面を付け「二宮飛鳥」でいることに慣れ過ぎて、変化していたのが仮面の下のボクだったということに気付いていなかった頃だ。

『んー……月並みなことしか言えないけど、人は変わるものだよ。俺だってそうだ。変わらない人なんていないさ』

『そう、だね。キミは正しい。あぁ、まごうことなき正論だ。変わらないヤツなんていやしない』

 知ったような口を利いて、何もかもを見落としていたんだね。ボクは、ボクのことを。

『それでも、ボクがボクでなくなってしまったら……キミはどうする? 先なんて見えない暗闇の中で、進むべき道はおろか自分のことすら見失ってしまったボクを、キミは……置いていってしまうのかな』

 キミに置いていかれて、ボクは見つけられたよ。ボクの中にいた、ボクってヤツを。

『その時は……見つけてみせる。なーに、俺とお前は一度こうやって出会えたんだ。飛鳥が自分を飛鳥じゃなくなったと思っても、どこかに必ず飛鳥がいるはずだ。それを俺は見つけてみせるよ』

 …………。


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