95: ◆KSxAlUhV7DPw[saga]
2016/06/11(土) 23:16:56.69 ID:2YZyh0JIo
「キミが恐れているのも理解る。余計な感情を抱かせて、つらい想いをさせたくないっていうんだろう?」
「……そうだな。自意識過剰みたいな言い方になるから、凄く恥ずかしいけど」
実際に好意を寄せられているから仕方ない、とは言わないでおこう。なんかシャクだ。
ただ、蘭子や幸子、そしてボクにとっての彼が、物語の主人公然とした活躍をしていることは間違いなかった。
ボクらの物語が喜劇で終わるか悲劇で幕を閉じるか、それは誰にも解らない。
解らないからこそ、ボクらは自分の物語にありきたりなハッピーエンドってヤツを夢見てしまうんだ。
「それでも、ボクは解り合いたい。この世界に連れてきてくれたキミを、パートナーとして共に歩んでいくことになるキミのことを。孤独なセカイはもう……たくさんだ。こんなに近くにいて、表面だけの寒い付き合いなんてしたくない」
「……」
「ボクだけじゃないよ。キミを信じてついてきているアイドルは口を揃えて言うはずだ。キミのことを知りたい、と。ボクらをありのままに受け入れてくれるキミのことを」
「そう、なのか?」
「そうさ。どうもキミがアイドル性を見い出す相手は癖のあるヤツばかりでね。それまで生きてきた世界で上手く立ち回れていなかった人も少なくない。そんなボクらはキミとなら波長が合うんだよ。まったく不思議な存在だ……だから、知りたい」
ボクと同じく彼が現れるまで理解されることを諦めていた蘭子や、自分のカワイさを身内でもないのにすんなり認めて貰えた幸子。彼女らが彼を一目置いていることは説明するまでもない。
キミが受け入れてくれるなら、キミの手で用意された輝きの舞台にボクは往こう。
ボクは解り合いたい。心置きなく、彼のためにも輝けるように。
「だめ、かな。いつ芽生えてしまうとも解らない感情に、振り回されたくない?」
悪い芽は早めに摘めというが、既に芽生えてしまったこの感情をボクは摘み取れそうもない。実らないまま日陰で育てることになろうとも、大切にしていたかった。
そんなボクの覚悟をどこまで察したのか、彼は躊躇いがちに白状した。
おそらくそこに、彼が隠そうとした本音があるのだろう。
「……俺な、彼女が辞めてしまったことで、もう一つだけわかったことがあるんだ」
「それって?」
「俺だって人間だ。一人の男でもある。なら俺だって、いつお前達にそういう感情を持ってしまうかもわからない。そもそも俺がアイドルにしたいと思った相手なんだから、他の女性よりよっぽど魅力的に映ってる。もし俺の方がお前達にそういう目を向けてしまったら……示しがつかないじゃないか」
「……ふふっ、何それ」
示しがつかない、か。
そんなところまで対等になろうとしている彼が、よく解らないけど可笑しかった。
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