99: ◆KSxAlUhV7DPw[saga]
2016/06/12(日) 22:03:33.42 ID:SF7aGoloo
「――飛鳥、気分はどうだ? 体調は悪くないか? 水ならあるぞ? それとも何か……ああでも食べ物は持ってないな。急いで買ってこようか?」
本番当日、ステージを直前に控えたボクは過保護なまでに心配されていた。
そこはボクの分までどっしりと構えていてくれるものではないのか? ボクより慌てられるとなんだか緊張しているのが馬鹿らしく思えてくる。
まぁ、手の震えが止まらないボクを少しでも安らがせてくれるのは有り難かった。今朝は舞台用に考えておいたエクステをなかなか上手く編めなくて、ゆっくり朝食を取れなかった程度に平静でいられていないのは彼に黙っておこう。
「何も要らないよ。キミはそこで黙って見てればいいさ」
「そうは言うけどな、俺に出来ることはしておきたいんだよ。代わりに出てやれたりはしないんだからな!」
「……蘭子と幸子の時もこうだったのかい?」
だんだん煩わしくなり、同じ衣装に身を包んだ彼女らへ助けを乞う。
二人揃って苦笑を隠そうともしなかった。
「我が友の魂の叫びは些か熱すぎて、こちらの熱も冷めるというものよ(プロデューサーがうるさくて、こっちが冷静になれたなあ)」
「ボクの時は首から上全部を撫でられそうになりましたねぇ……ボクたちより落ち着きがなくてどうするんですか」
散々な言われ様にも意を介さず、今度はボクの手を取り出した。
「ずっと見守ってるから、頑張れよ。レッスン通りにやれば大丈夫だからな!」
「もう何回も聞いたよ……いいから離してくれ」
「まだだ。俺の、せめて気合だけでも飛鳥に送る!」
手と手を合わせられると、否が応にも屋上でのことを思い出してしまってそれどころではなくなるんだが……。手の震えもこれだと誤魔化せないし、顔を背けるぐらいしか抵抗の術がなかった。
そんなボクらの様子を幸子は唇をとがらせて、蘭子は微笑ましくといった様子で眺めている。
どうやら彼のことは、諦めてされるがままになるしかないようだ。
「ボクたちだって同じステージに上がるのにぃ。飛鳥さんが心配になるのはわかりますけども」
「天に使えし者よ、我々が為すべきは天上の舞台を湧かせること。ならば我らが新たなる翼を激励するのが同胞たる役目よ!(幸子ちゃん、私達はステージを盛り上げることを考えなきゃ。そのためには同じユニットで初舞台の飛鳥ちゃんを励ましてあげよう、ねっ♪)」
「わかってますってば。飛鳥さんの大事な初舞台、ボクが引っ張ってあげますとも。なんたってセンターはボクなんですからね、フフーン♪」
「それでこそ幸子ね! 我もそなた達との舞台、全身全霊を尽くさん! 遍く敵を打ち破り今宵は祝盃を交わそうぞ!(それでこそ幸子ちゃん! 私も二人とのライブ、思いっきり頑張るぞー! そして今夜は一位になって祝勝会を開くの!)」
「ボクが出る限り一番は約束されたようなものですが、良いですね! 今の飛鳥さんなら素直についてきてくれそうですし。今夜の予定は空いてますか、プロデューサーさん、飛鳥さん?」
……うん?
何だろう、なにかが引っ掛かる。ボクに予定はないけれど、そうじゃなくて。
彼に手を取られてるせいもあって違和感の正体を落ち着いてつきとめられない。だが彼はあっさりとその違和感を看破した。あるいは率直な感想をありのまま述べるように。
「幸子、蘭子の言葉通じるようになったのか?」
112Res/208.62 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。