40: ◆ULuwYLs/ds[saga]
2016/05/05(木) 23:12:02.58 ID:xJU0s9Q00
その夜、私はこんな夢を見ました。
気がつくと川辺に立っており、周りを見渡しても人影もありません。
月の光がぽっかりと道を照らしているようで、その道を歩いていく事にします。
その道は一軒の民家に続いていて、どうすればいいだろうと悩んでいますと、縁側にポツリと人影が見えました。
近付いて見ると、一人の老人が、柱を背もたれにし、月を眺めていました。
「……お客さんか……珍しいな」
その老人が手招きをしながら私を呼びます。
「簡単な物しか出せないが……」
そう言いながら、急須から湯飲みへお茶を注いできます。
頂きます。と口に出し、お茶を飲むと心地好い温度で喉から、胸、そしてお腹の中がジンワリと暖かくなっていきます。
「……口に合うかどうか分からないが」
「……とても美味しいです」
「……そうか」
「……」
「……」
手元にある湯飲みをよく眺めると、形状に波があり、手作りという事が分かります。
私がしげしげと眺めていると老人が、形は悪いかもしれないがモノは良いモノだと、頬を掻きながら答えました。
視線を手元から夜空に浮かぶ満月に戻し、手が届きそうなくらい近いですねと投げかけると、老人が少し驚いた顔をして、そうだな。と一言。
「……もし、月が明るいせいで星が見えなかったら」
どうすればいい。と老人が呟きます。
……星が見えなかったらなんて、そんなことを考えもしませんでした。
それでもきっとその答えは私が伝えるべきじゃない。なんとなくそう思いました。
「……そうか」
老人がゆっくりと立ち上がります。
月を背にした老人の姿はまるで、お話に出てくる月下老の姿にとても似ていて……
「どうか……孫をよろしく頼む」
月の光に照らされ、視界が白に包まれていきます。
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