8:名無しNIPPER[saga]
2016/05/17(火) 01:30:26.49 ID:3C5u4qTv0
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俺は食い入るようにテレビを見つめていた。やってる番組は、『生放送 春のスポーツ祭り』
今はバレーボールの競技中だった。
普段だったら、遊び半分でやってる連中の試合なんて鼻で笑って、若干の胸糞悪さを覚えながらチャンネルを変えるところだが、今日ばかりは違った。
俺のクラスの三村が出演しているからだ。
三村はこの収録のため、苦手なバレーを克服したいと、バレー部に仮入部を申し出て、毎日のように練習に来ていた。
最初は、冷やかしだと思って軽くあしらっていた。話題のアイドルが、たかだか一回の練習のために、そんなに大げさなことをする必要はないだろうと思い、顧問も同じ考えのようだった。
でも、三村は本気だった。その熱意に押され、顧問が許可を出して、部員で交代で教えたりしてた。
そりゃ最初は拙かった。まあ……運動神経や体型はともかく、ボールに対して恐怖心や苦手意識がどうしても強かったみたいだから。
当然、当たったら痛いし、当てても痛い。そんな競技だ。俺が見てるだけでも何回もボールにぶつかって、ひっくり返ったことも一度や二度じゃない。
だけど、三村は絶対にあきらめなかった。教室やバラエティで見るような、ふわふわした雰囲気はなりを潜めて、気迫にこっちがたじろぐほどだった。
これが、この集中力が、三村を人気アイドルにしたてあげたものなのだろうと直感した。たとえ畑違いでも、そういうストイックさはやっぱり分かるものだ。
聞いた話じゃ、部活の時間帯に仕事が終わらなくても、夜に練習してたこともあるらしい。
そして時間中は真剣そのものだが、練習が終わるといつもの柔らかい態度に戻って、マネージャーばりにお茶を配ったり、部員に自作の菓子を配ったりしてた。
糖分は禁止なんだよ、っていうと、じゃあヒミツだねっ、って、にっこりしながら手渡してきたりした。
そんな、ある日の練習中。
どうしてそこまでするんだ? と。聞いてしまったことがある。
すると三村は汗をぬぐい、お仕事だから、と答えた。その後、恥ずかしそうに笑った。
俺はボールを取り落として、ごまかしながら拾い上げた。
ローテーションで前列に来ていたかな子に、リベロが絶好球をあげる。
テレビの中の小さなかな子は天井を見上げ、両足で踏み切って、渾身のアタックを決めた。
あれは俺が教えたんだと、明日部員全員が言うことだろう。
そして、無理を承知で、正式に入部してもらえないかと、全員が言うだろう。
カメラには最高の笑顔が写っていた。
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