過去ログ - 荒木比奈「最初の一歩が踏み出せなくて」
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17:名無しNIPPER[sage saga]
2016/05/26(木) 23:51:03.99 ID:SxnKCCpl0


PM10:00 荒木比奈宅

 荒木比奈は、昼間のことを思い出す。凜然と語った、美しい少女の姿を。

『……よく、分かんないっス』

『嘘です。比奈さんは、きっと分かってます』

 比奈の呻くような呟きに、美波は穏やかに微笑んだ。

「……アタシは」

 脱オタしようと思った。オタクから足を洗って、真っ当な生き方をしようと思った。 
 出来なかった。明日から本気出す、と口からでまかせを言って問題を先延ばしにして、結局まだお金にもならない漫画を書いてる。

「……ああ、そっか」

『怖く、ないんスか?』

 あれは美波だけに向けた言葉じゃなかった。あれは、比奈の心を象徴する言葉だったのだ。
 比奈は怖いのだ。変わることが怖いのだ。傷つくことが怖いのだ。今日の次に明日ではなく今日があればいいと、半ば本気で思っているのだ。
 だから立ち止まることを拒む美波が理解できなくて、前に進むのは怖くないのか、何故わざわざ苦難の道を進むのか、と、聞いてしまったのだ。

『それが、新田美波というアイドルだから』

 そして、美波にとって前に進むというのはきっと、あるがままの自分であるということだった。
 自分の信じた自分であるために、自分の信じた自分に置き去りにされないために、彼女は恐れながらも足を踏み出すのだ。

 それはきっと、比奈にとっても同じことだ。

「……きっと分かってる、っスか」

 信じた自分に追いつくために、何をするべきなのか
 多分、比奈は答えを知ってる。
 つ、と机の隅に視線を移す。
 そこにあるのは一枚のチケット。

“海洋公演 セーラーマリナーズ”

 行かなければならない。
 内にある答えを、確かめるために――

  



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