過去ログ - 荒木比奈「最初の一歩が踏み出せなくて」
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20:名無しNIPPER[sage saga]
2016/05/26(木) 23:57:01.85 ID:SxnKCCpl0


 比奈はすっかり魅せられていた。

 ――歌と踊り、そしてスポットライトを用いた演出。ただそれだけで、ここまで物語ることが出来るのか。
 
 物語の粗筋は知っている。Pに乞われてストーリー作成とキャラクターの設定に多少助力したからだ。
 それでも比奈はステージに釘付けになっている。結末を知っている物語に、夢中になっている。

『――海が、怖くなった?』

 仕事を終えた少女が甲板でぼんやりとしていると、水木聖來が演じる先輩はそう問いかけた。
 この歌劇で数少ない、セリフのあるパートである。

『時化に呑まれることは珍しいことじゃないのよ。海賊や海獣に襲われることもある。セイレーンだって、今回みたいに優しい子ばかりじゃない』

 松本沙理奈が演じるもう1人の先輩が言葉を続ける。

『大怪我をするかもしれない』

『生きて帰れないかもしれない』

『死体としてすら、戻って来れないかもしれない』

 投げかけられるのは厳しい言葉。ただその声は優しく、そしてどこか、からかうような音が含まれていた。
 ――それはきっと、彼女の答えが分かりきっているからだ。
 美波は客席を振り返り――比奈の勘違いかもしれないけれど――ちらりと、比奈を見て、

『――けど、海に出なかったら、きっと皆に会えなかった』

 爽やかな笑顔を浮かべた。

『怖くないワケがない。傷つくのも、死ぬのもイヤ』

『だけど困難に遭う度に、皆で乗り越えれば良いんだって、分かったから』

『いろんな事を教えてくれたから。いろんな人と出会う機会をくれたから』


『だから私は――また、旅がしたいです!』


 そして舞台は暗転し、物語はエピローグ。

 一人前になった少女は2人の先輩と共に、再び航海に出るのだった――。

 



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