過去ログ - 荒木比奈「最初の一歩が踏み出せなくて」
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7:名無しNIPPER[sage saga]
2016/05/26(木) 23:31:05.37 ID:SxnKCCpl0

PM9:00 荒木比奈宅

「……ふぅ」

 椅子の背もたれに身体を預け、小さく溜め息を吐く。

『もう一度考えてみてくださいねー!』

 先ほどまで手伝いをしてくれていた男はそう捨て台詞を残して自分の部屋へと帰っていった。

「……アイドル、かぁ」

 ぼんやりと天井を見上げていた比奈は、ふと思い立ち、本棚から1本のDVDを取り出して、再生機に押し込んだ。
 それは2ヶ月前に行われた『C-BLUE』の――Pの担当するアイドルのステージが納められたDVDであった。
 比奈はアイドルのステージがどんなものか、あまり詳しくは知らない。だがそんな比奈でも、『C-BLUE』の公演が他のアイドルのライブとは少々趣が異なっていることは分かった。
 ステージは歌を主軸に物語を進めるミュージカルに近い。歌と歌を繋いで物語を形作り、ダンスでそれを盛り上げる。
 台詞は決して多くない。歌と踊りと舞台演出。その3つで、極めてシンプルな物語を奏でる。
 そのDVDに納められたステージは、『路地裏公演』と呼ばれているもので、バックストリートにある小さな教会を舞台に、その教会で育てられた純真な女の子と、悪戯好きなわんぱく少女、彼女たちを見守るパン屋のお姉さん、そして家出してきた両家の息女の4人の少女の友情を描いた物語だ。

「……まぶしいっスねぇ」

 力強いダンスでメンバーを引っ張る水木聖來、 圧倒的な歌唱力で物語に問答無用の説得力を与える望月聖、バックストリートの少女の奔放さを体現しのびのびと飛び跳ねる吉岡沙紀、そして役がそのまま憑依したかのような見事な演技を見せる新田美波。
 主役を張った彼女たちだけではない。端役のアイドル達もみな、キラキラと輝いていて――

「……住む世界が違うっスよ」

 そう呟いて、DVDの停止ボタンを押した。
 比奈もPに請われ、この公演に少しではあるけれども関わっている。キャラクターの配置とおおまかな粗筋、4人の友情のシンボルのバッジのデザインなど小道具の作成に、外部からの協力者として僅かながら助力している。
 それはとても楽しかったし、比奈にとって誇らしいことでもあった。

「……裏方の方が、身の丈に合ってるっス」

 誰かに言い訳するようなその言葉は、誰にも聞かれることはなかった。



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