過去ログ - 提督「荒潮がセックスと言うのだから、朝潮もセックスと言うのだ」
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10:名無しNIPPER[saga]
2016/06/06(月) 04:44:10.81 ID:iz0HsH6m0
標高一メートル以下の空中でぐるぐる回転してそれは留まったかと思うと、さらに驚くべきことに落下するどころか徐々に上昇してさえゆくではないか。ぐるんぐるんとハンマー投げのような激しい重心回転で上昇していくさまは、プロペラが一枚にも関わらず遠心力によって飛ぶモノコプター型のドローンを彷彿とさせた。

猫とトースト、生と死は螺旋を描いて不規則に明けた夜の方角へ向かう。両者は互いに相手を上におとしめようと激しく離反を試みるが、その上昇の根拠がまさにその離反運動である限り、完全に離れ去ることもできないはずだった。

「セックス」。荒潮が言う。言われてみればそうかもしれない。その飛びざまはトンボやチョウに見られる空中で行われる愛の営みに近いものがあった。現状、猫とトーストは憎悪的な戦争状態にあるとも言えたが、同時に友愛的な和解状態にあるとも言えた。

この奇跡的とも運命的とも言えるアンビヴァレンスこそ進歩の秘訣なのかもしれない。猫とトーストが西の方で小さくなって消える時にはもう夜は完全に崩れ去り月の亡霊も宵の煙も完全に失われていた。

「セックス」。荒潮の声が新鮮に響いた。そうか、なるほど「セックス」か。朝潮は後ろを振り向いた。荒潮はじっと朝潮を見つめている。朝潮は「セックス」と言った。荒潮が笑った。朝潮も笑った。たといこの世界から「セックス」以外の他全てが失われることがあったとしても、私たちは繋がりあえる、そう強い絆で結ばれるのを実感した。

荒潮は己のトーストをバターナイフで半分にして朝潮に差し出して言った。「うふふふ。朝潮姉さんったら朝から大胆なんだからぁ。ちょっとびっくりしちゃった」。朝潮は考えた。これは朝潮が荒潮との「セックス」関係を受け入れたから意志疎通できるようになったのか、それとも朝潮が「セックス」と言ったことに対し、正気になった荒潮が常識的な乙女の素朴な反応を返しただけなのか。

朝潮は半分こされたトーストを齧った。不味い。「ちょっとぉ、これなんか冷めていておいしくないわ」。荒潮が文句垂れるのを聞き、朝潮は笑った。荒潮は不思議そうな表情をしたのも束の間、すぐに笑いだした。キジバトがホーホホッホホーと再び鳴きだす。朝潮は何だかとても懐かしい感じを受けた。


おわり


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