12: ◆JgoilToZJY[saga]
2016/06/20(月) 06:10:57.63 ID:9fy5FiS10
「見ろ。鍋が濡れている。草を煮込んでいたんだ。ほら、脇に草が少し残ってるだろ。何の草かは知ってるか?」
「わからない。何なの?」
「眠草の一種だ。俺が優希に教えた事がある。これにアウボヘビの舌や芋の根を混ぜて煎じれば催眠効果のある薬が出来上がる」
まるで賢者のような物言いだった。
京ちゃんは、大学入試に向けて勉強を始めてからあらゆる知識を身につけていた。
近場で採れる材料でそんな効果がある薬が出来上がるなんて、ちょっと怖い。それを優希ちゃんに教えてるなんて。
昔、お父さんから有害書物の焚書が行われたと聞いた事がある。知識を悪用されれば、秩序を乱すからだと。
「きっとこれで、馬の世話をしていたオジサンを眠らせたに違いない。優希の奴……」
私は優希ちゃんの布団を調べた。奇妙な紙切れを見つける。
書かれていたのは、京ちゃんが言ってた催眠薬の作り方だった。京ちゃんに教えてもらったことを、きっと、忘れないようにメモしていたんだろう。
いずれ来るこの日の事を予見して。
外に出て、村唯一の簡素な厩を見た。京ちゃんの馬一頭の為だけに拵えた小屋だけに、見るべき箇所は多くない。
馬が暴れた形跡はなかった。専門家じゃないから断言はできないけど、京ちゃんが馬に乗る練習をするのをずっと見ていたから、多少はそういう事もわかるようになっていた。
きっと優希ちゃんが馬に乗ったんだ。そして何処かに消えた。
馬の足跡を辿ればわかるかもしれない。けれど京ちゃんのお父さんがすでに辿っているだろう。取り敢えずそちらに任せておこう。
優希ちゃんは馬鹿な子じゃない。
安い馬とは言え、小さな村の人々の収入からすれば相当に高価な馬一頭を、逃がすなんて軽率な事はしない。
こんな騒ぎを起こしてる時点で軽率だって言われるかもしれないけど、優希ちゃんは決して、村のみんなの想いを台無しにしたい訳じゃない筈だ。
……多分ね。
優希ちゃん……
「家の中は調べ終わった。他に有益な情報は無かった……そっちは?」
私は見た事、考えた事をその通りに話した。
「優希の奴、何処に消えたって言うんだ……!」
「なにか思いつく場所はないの? 昔遊んだ思い出の場所とかさ」
「あっても、見つからないような場所じゃない。もしそういうトコに居るようなら、村の皆がとっくに見つけてる」
声に棘が含まれている。
当たり前に思いつく事をいちいち訊くなと、私を責めるように。京ちゃんにそんなつもりは勿論ないだろうけど。
冷静になろうとしてるけど、なりきれていないのは明らかだった。
対する私は、どうしてだか冷静だった。
「くそ。他に手掛かりは……」
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