過去ログ - 高垣楓に憧れていたモデルの話。
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2:名無しNIPPER[saga]
2016/07/01(金) 01:44:31.23 ID:YGge3a1w0

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 ある日、私は高垣さんと二人きりで現場に入ることになった。

 その時の私の緊張と言えば、もう、言い表しようがないほどのものだった。モデルになる前から憧れていた……いや、モデルになった理由そのものですらあるような人なのだ。
 もう、どうすればいいのかわからなかった。

 そうやってひとり「あああああ」と目をぐるぐるとさせていると、「あの……」と私に声がかかった。

「今日は、よろしくお願いしますね」

 高垣さんだった。

「ふぇっ!? た、高垣しゃん?! そ、その、えっと、こちらこそ、よろしくお願いしましゅ!」

 噛み噛みだった。死にたくなった。

 せ、せっかく高垣さんが話しかけてくれたのに……私なんかに、気を遣ってくれたのに……。どうして、こんな時に私は……!
 穴があったら入りたい……ブラジルまで突き抜けてしまいたい……。

 そんなことを考えている自分がどんどん情けなく思えてきて、私はううと涙目になりながらうつむいてしまった。

 すると。

「……ふふっ」

 と、漏れるような優しい笑い声が聞こえた。

 顔を上げると、そこには驚いたような顔で自分の口を抑える高垣さんの姿があった。

「あっ……ごめんなさい」

 自分が漏らした笑みに気付いて、高垣さんは私に向かって頭を下げた。

「ああっ、いや、その、私が、私が悪いので、高垣さんは頭を上げて下さい!」

 あわあわと慌てて私は言った。た、高垣さんにこんなことをさせてしまうなんて……私、もうこれだけで地獄行き確定なんじゃないだろうか。そんなことさえ思ってしまった。

 しかし、それでも高垣さんは申し訳なさそうな顔をしたままだった。あの高垣さんにそんな顔をさせるなんて、一瞬だけでも大罪なのに、ずっとなんてありえない。

 どうしよう。どうしたら高垣さんはいつもの高垣さんに戻ってくれるだろう。考えろ、考えろ、私。何でもいいから、高垣さんの表情を、和らげるために――

「――あの! 高垣さん!」

 そう思った私の口が、勝手に動いた。


「きょ、今日っ! 一緒に、飲みに……いきません、か?」


 口にした瞬間、私は自分を殴りつけてやりたい気分になった。

 何を言っているんだ、私は。私なんかが高垣さんをお酒に誘うなんて……そんな恐れ多いこと、よく言ったな!
 もう、ありえない……こんなんじゃ、高垣さんに嫌われちゃう……変な奴だって、思われちゃう……。

 私は恐る恐る高垣さんの顔をゆっくりと窺った。

 私の言葉に対して、高垣さんはぽかんと目を丸くしていた。

 ああ、やっぱり……私は、なんて迷惑なことを。

 そう思った時だった。

「……はい。あなたがいいなら、よろこんで」

 やわらかな微笑みとともに、高垣さんは言った。

「……え?」

 私は呆けた声で返した。

 そうして、私と高垣さんの初めての飲み会が決定した。



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