16:名無しNIPPER[saga]
2016/07/04(月) 00:30:11.42 ID:BFmKl9Djo
わたしはその言葉を聞き流しながら、いくつかのことを思い出した。
母さんのこと、叔父のこと、妹のこと。そのどれもがなんだか遠い。
どうして叔父は――お兄ちゃんは、死んでしまったんだろう?
煙草を買いにいって、信号待ちで、事故で。
お兄ちゃんは、どうして、お金を遺したんだろう?
そのお金を、わたしにどうしてほしかったんだろう?
分からないことばかりで、嫌になる。
「なんだか、遠いな」
そう言って、わたしは空を眺める。
影が後ろに伸びていく、反対側の空が藍色に濃さを増していく、何もかもが融け合ってまざりあって、よく見えなくなっていく。
昔のことを思い出しそうになる。
わたしはそれを、可能なかぎり素早く頭の内側から追い出してしまう。
そうやって今日まで生き延びてきたのだ。
そうして最後に残るのは、お兄ちゃんが死んでしまった、という感慨ですらない感想だけ。
お兄ちゃんは死んでしまって、わたしはこれから彼のいない世界で生きていかなければならない。
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