過去ログ - 開かない扉の前で
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807:名無しNIPPER[saga]
2017/10/24(火) 00:49:12.52 ID:IXxsBwaSo

 その人は、わたしとケイくんのことなんて見えていないみたいに、まっすぐにざくろに視線を向けていた。

「ねえ、ざくろ。あなたの言いたいことは分からなくもない。血は、流されないといけない。
 でも、それは他の誰かの血ではないはずよね。遼一が、こっちの遼一を刺した。それは、事実かもしれない。
 でも、ねえ―― そうさせたのは、ざくろ、あなたじゃない?」

 ざくろは、からかうように笑った。

「そんなことを言うために、ここまで追いかけてきたの?」

「ようやくわかったのよ」とその人は言った。

「さっきの話を聞いて、ようやく分かった。あなたがどうして、こんなことをしたのか。
 誰かを迷い込ませて、その人を混乱させているのか。ただ繋ぐだけの力しかないくせに、どうして"願った景色が見える"なんて言ってたのか。
 ようやく分かった。……あなたはただ、"自分を苦しめた世界"を、"苦しめたい"だけなのね。
 誰かを傷つけることで、自分が流した血を贖わせているのね」

 ざくろは何も応えない。

「ずいぶん探した。見つけるまで、時間がかかった。あっちこっちを行き来して、あなたを追いかけた。
 あなたの背中を探して、わたしはずいぶん時間を無駄にした。でも、考えてみれば、何も追いかける必要はなかったのね……。
 あなたは、"どこにでもいる"んだものね」

 黒衣の女の人は、ざくろを片目で見据えたまま、片方の手のひらで自分の眼帯をそっと撫でた。

「――あなたを止める。絶対に。それがわたしの責任だと思うから」

 目の前で起きていることの意味が、わたしにはうまくつかめない。
 戸惑ったまま、知らず手に力がこもる。
 
 彼の手のひらは、静かに握り返してくれた。




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