816:名無しNIPPER[saga]
2017/10/30(月) 00:30:16.79 ID:J5LgB8ivo
ドアは、どうしてだろう、驚くほど簡単に開いた。
見覚えのある景色だった。
家具の配置もカーテンの色も、本棚に並ぶ背表紙の文字も、わたしが知っているものと同じだ。
お兄ちゃんの部屋だ。お兄ちゃんの部屋だと、すぐに分かった。
同時に、この部屋の主はもう、ここに現れることはないのだと、そう分かった。
たとえこの景色が夢のようなものだったとしても、それだけは揺るがない。
当たり前のように、部屋の中に足を踏み入れる。
本の匂い、少し埃っぽい空気。どうしてだろう。
たった数日、家から離れていただけ。それだけなのに、ずいぶん懐かしいような気がした
この数日間の出来事に、いったいどんな意味があったんだろう?
お兄ちゃんは、どうしてお金なんか残したんだろう。
お兄ちゃんは、どうして死んでしまったんだろう。
お母さんは、どうして――
この景色は、わたしにいったい何を伝えようとしているんだろう。
わたしは、なんとなく、並ぶ背表紙の中の一冊に目を止めた。
それはたまたま、ジャック・ラカンの「二人であることの病」だった。
べつにたいした意味なんてなかった。
ただ、パラパラとページをめくって、たまたま開いたページ。その記述が目に飛び込んできた。
992Res/853.12 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。