過去ログ - 開かない扉の前で
1- 20
835:名無しNIPPER[saga]
2017/11/03(金) 00:22:47.25 ID:lNpLKx20o

「……え?」

 それでも、その言葉に、思わず頭がまわらなくなった。

 わたしの様子なんておかまいなしに、ケイくんは歩幅を変えずに進んでいく。
 予期していた言葉は――心のどこかで、そう言われるんじゃないかと思っていた言葉は―― それでもわたしに突き刺さった。
 
 それでも、引き離されないように、手だけは彼の服から離せずに、
 置いていかれないように、足だけは止められずに、
 ただ、何事もなかったみたいに、彼についていく。

「……こんなことになるなんて思ってなかったんだ」

 ケイくんは、そう言った。

「俺が、軽率だったよ。おまえに変な噂話を聞かせたせいだ。そのせいで、こんなことに付き合わされるハメになった。
 そりゃ、義理がないわけじゃないし、おまえが憎いわけでもない。でも、正直……ここまでのことは、俺には重荷なんだ。抱え込めないよ」

「……」

「俺は、叔父さんの代わりにはなれないよ」

「そんなの……」

 そんなの、ケイくんに求めてない、と、
 わたしは本当にそう言えるだろうか?

 煙草の匂いに、彼の博識に、背丈に、
 お兄ちゃんの姿を、重ねていなかったと、わたしは言えるだろうか?

「死人に重ねられるのは、つらいよ」

「……」

「おまえは結局、俺のことなんて見てないし、だから本当は、おまえは俺のことなんて必要としてないんだ」

「……」

「そうだろ。たまたま、近くに俺がいただけだろ? おまえはべつに俺じゃなくてもよかったんだろう?
 都合の良い相手がたまたま俺だっただけで、おまえは俺を必要としてるわけでも、俺を好きなわけでもない。
 ただ近くにいただけだ。それなのに、どうして俺がこんなものまで引き受けなきゃいけないんだ?」

「違う」

「馬鹿らしいんだよ」




<<前のレス[*]次のレス[#]>>
992Res/853.12 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice