966:名無しNIPPER[saga]
2017/12/06(水) 01:36:35.85 ID:IzyndCNto
◇
部室のドアがノックされたのはその会話の少しあとのことだった。
扉を開けて入って来たのは小夜だった。
彼女は部室の中を見渡して、僕の姿を見つけるとすぐに近付いてくる。
「ちょっといいかな」
いくらかためらいがちな様子で、それでも彼女は僕の方をまっすぐに見ていた。
どこか懐かしい、澄んだ瞳。
いつも思っていた。
この子の目はどうしてこんなに穏やかに見えるんだろう、と。
彼女に言われるがままについていくと、向かった先は屋上に至る階段だった。
昇りきると、屋上に向かう扉がある。
けれど、その扉は開かない。鍵が閉まっているのだ。
彼女はその扉の手前、一番上の段に、敷いたように積もった埃を気にすることもなく座り込んだ。
「とりあえず、座ったら」
彼女がそう言うので、僕は仕方なく隣に腰を下ろした。
直接話すのは久し振りだというのに、以前よりもすんなりと彼女と一緒にいられるような気がする。
いろいろあったせいで、僕の中にあった妙なものがうまく機能していないのかもしれない。
それでも戸惑っていないわけではなかった。どうして、急に声をかけられたりするんだろう。
彼女の表情が少しこわばっているのが、頭の中で、向こうで見た彼女のそれと勝手に比較される。
僕は、あんなふうにこの子を笑わせることができない。
「聞きたかったの」と、振り絞るように小夜が言った。
「でも、何から聞けばいいのか分からない。難しくて。何を言えばいいのかも、ずっと考えてたんだけど」
でも、でもね。
「心配した。帰ってこないんじゃないかって、心配、したよ」
僕は言葉を失った。
そんな言葉を言われるなんて、想像もしていなかった。
そんな言葉を僕に言うのは間違ってるって、ふさわしくないって、そう言おうと思って――やめた。
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