過去ログ - 開かない扉の前で
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972:名無しNIPPER[saga]
2017/12/06(水) 01:42:15.58 ID:IzyndCNto



 その日から、僕と小夜はふたりで帰るようになった。

 べつに、それで何が変わるというわけではない。
 何かが解決するというのでもない。ただ、何気ない話をして、一緒に歩くだけのことだ。

 久し振りに話してみると、どうやら互いが互いにそれぞれの様子を窺っていたのだと分かってバカバカしくなった。

 もっと早く話していればよかった、と小夜は言った。僕は、あまりそうは思わない。
 今ある結果に、そんなに不満は抱いていない。それに、贅沢は言えない。

 この結果だけでも、僕には十二分だ。

 ある日、校門の手前で、篠目あさひに呼び止められた。

「どうしたの」と訊ねると、彼女は少し不思議そうな顔をした。

「前と違う」

「何が」

「顔」

「……まあ、いろいろあったから」

「そう」

「……何か、あったんじゃないの?」

「うん。沢村翔太のこと」

「……沢村?」

「もう、心配しなくていい」

 僕には、その言葉の意味がよくわからなかった。
 行方知らずになった沢村が、帰ってきた、という意味だろうか。
 でも、沢村が、こっちに戻ってくるなんて、僕には思えない。それに、それを篠目が僕に話す理由も分からない。

「……妙な夢でも見た?」

「ううん。しばらく見てない。だから大丈夫」

 篠目の言うことは、やはり、よくわからない。

「わかった。ありがとう」

 とにかくそう伝えると、彼女は何も言わずに僕に背中を向けた。僕もまた、もう彼女に用はないと思った。

「それじゃあね、遼一」

 何気なく、その声を聞き流して、
 驚いて振り返った瞬間には、篠目あさひの背中はどこにもなかった。

 遼一、と、僕を呼ぶのは。
 その彼女が、“沢村のことは心配しなくてもいい”ということは……。

「……遼ちゃん?」

 隣にいた小夜が、心配そうに僕を見上げているのに気付く。

 僕は、それ以上深くは考えないことにした。
 
 すみれのこと、ざくろのこと、気にならないわけではない。
 でも、きっと、いくら考えたって、もう分からない。





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