979:名無しNIPPER[saga]
2017/12/11(月) 00:55:53.41 ID:S5mn3zpLo
こちらの世界に帰ってきてから、わたしは、お兄ちゃんの部屋の本棚の中身と、祖母が残していたアルバムを眺めた。
写真に映るのが嫌いな人だったけれど、それでも、お兄ちゃんの姿はそのうちの何枚かにちゃんと残っていた。残っている。
その写真の中で、お兄ちゃんは笑っている。笑っていた。
そうなのだと思った。
いつか、遠くの薔薇園に、家族で行ったことがあった。
家族で、といっても、祖父母とお兄ちゃんと、それからわたしだけだったけれど。
生憎の曇り空で、人気は少なかったけれど、西洋風の庭園に広がる色とりどりの薔薇たちは、
見られるかどうかなんてはじめから気にしていないかのように綺麗だった。
そんな景色のなかで、わたしはお兄ちゃんと、少しだけ話をした。
どんな話をしたんだっけ。たしか、神さまの話だ。神さまの、悲しみについて話をしたのだった。
それはどこにでもありふれていて、取るに足らないもので、それでも捨て置けないものなんだと。
そんな話をしたのだった。
そのとき、お兄ちゃんは、どんな顔をしていたっけ?
わたしは、そのとき何かを言って、くだらない、子供っぽいことを、きっと言って、
お兄ちゃんはそのとき、笑っていたのだった。
そうだった。笑っていた。
笑っていたのだと、わたしは思い出した。
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