130: ◆FlW2v5zETA[saga]
2016/07/29(金) 05:58:22.51 ID:tU08Tvud0
「龍驤さん…?あ!ごめんなさい!トイレ待ってました?」
「ちゃう、キミを待っとったんや。ほぼ初対面みたいなんもんやし、少し二人で話したいなー思うてな。」
「は、はぁ……。」
龍驤は明るい姉御肌といった風だが、見た目に反し、実年齢歳相応にどこか底が見えない印象も夕張は抱いていた。
聞けば鎮守府の艦娘でも1.2を争う年長、そう意識すると、思わず畏まってしまう。
するとそんな夕張を察してか、龍驤は優しく彼女の肩を叩いた。
「キミ、ケイ坊と同級生なんやて?提督から聞いたでー。」
「え、ええ、まぁ……。」
「カーッ、ええなぁ、青春やなぁ。で、工廠メインちゅう事は…北上の事、知っとるやろ?」
その名を聞いた時、夕張の目が物憂げな色を浮かべたのを、龍驤は見逃さなかった。
そして優しい眼差しを彼女に向けると、龍驤はある問いを投げ掛ける。
「ケイ坊ん事、好きなんやな…キミ、あいつ追って艦娘になったん?」
「それもありますね…私、高校の頃は最後まで告白できなかったので。でも、もう一つ夢があるんですよ。」
「夢?」
「世界中で、深海からの襲撃が起きたじゃないですか。
狙いすましたように、各国の街を一部ずつ滅茶苦茶にして…たくさんの人が亡くなって…。
今でこそ各国の戦いの末に、制海も日常も相当に取り戻したけど…襲われた場所は、未だに復興が進んでいない所が多いんです。
私はこの戦争を終わらせて、学んできた機械工学を、そこの復興の為に使いたいんです。
艦娘になったのは、実状を知り、それを後に活かす為で。
笑っちゃいますよね?さっきもゲーゲー吐いちゃってたのに。でも、本気なんです。」
そう語る夕張の目は、理想に燃える若者のそれだった。
龍驤はその横顔を見て優しく微笑むと、続けてこう語る。
「ええやないか、殊勝な心がけや。
うちの連中、結構無茶苦茶な理由でやっとる奴も多いさかい、キミは汚れんといてや。
しかしケイ坊かぁ…北上、手強いで?ほんまもう、ケイ坊に依存しきっとる。」
「依存、ですか…。」
「せや。付き合っとらん聞いた時、びっくりしたわ。それでも勝つ覚悟、ある?」
「……あります。」
「気に入った。まあこれも何かの縁や、仲ようしたってや。あ、ライン交換しよー。」
夕張にとっては、やっと同性の仲間を得たと思えた瞬間であった。
そうして談笑する声が響く洗面台の、その扉の向こう。
そこの壁に寄り掛かり、聞き耳を立てる影が一つ。
北上だ。
電話が来たと席を離れたフリをして、彼女は二人の会話を聞いていた。
察しと面倒見のいい龍驤の事、恐らくそう言う話も出るであろうと踏んでの行為。
そして彼女達が出てくる前に、彼女はアリバイ作りの為に入り口へと移動する。
その間、彼女はどこか楽しげだった。
“へー…夕張ちゃん、そんな夢があるんだ…。
でもアタシもさ、夢があるんだよ?
アタシは早くこの戦争を終わらせて、仇を取って……。
ああ、楽しみだなぁ。
そしたらケイちゃんと、ずっとずっと……。
その為にも、早くあいつら皆殺さなきゃ。”
その後携帯を耳に当て、彼女は5分ほど会話するフリをしていた。
それは演技とは思えないほどの自然な会話で、画面を見ない限りは、そうだとは思えない光景である。
そして架空の通話の相手。
それはやはり、ケイなのであった。
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