過去ログ - 北上「離さない」
1- 20
133: ◆FlW2v5zETA[saga]
2016/07/29(金) 06:07:29.37 ID:tU08Tvud0


「そうだな…この戦いの後、軍がどう体制を変えるかわからないけど…一つだけ、決めてる事がある。」
「何?」
「子供の頃、あの街に仲の良かった幼馴染が引越したんだ。

俺がボランティアに行った時、たまたま家を見付けてね。
壁中が、明らかに人間が飛び散った跡で真っ赤で…皆殺されたって、そこで理解した。

写真でしか見れなかったけど、元は静かな海沿いの、綺麗な街さ。
だからいつかと同じ海を取り戻して…その時に、花を供えたい。

それを叶えられたら、後の事はその時考えるつもりだ。」
「そっか……うん、叶えなきゃね!」


この時夕張は、精一杯の笑顔で応える事しかできなかった。

そしてその内心は、切なさと悲しみで満たされていた。
北上の露骨な好意に気付かない理由も、その言葉で理解出来たのだから。

彼の心の内は、戦いの事でしか満たされていないのだ。
バイクといった趣味にも精を出しているようなそぶりこそ見せているが、実際の所、自身の人生そのものを復讐の為に捧げようとしている。

鈍感なのではない。
そもそも恋愛をしたいだとか、人としての幸福が欲しいと言った概念が、彼の心の目には映っていない。

夕張は、自身の気持ちが届かない事以上に、そんな彼の危うさが悲しかった。
この戦争を終えた時、彼は生きる意味を見失ってしまいそうな。そんな気がして。


「じゃあ部屋戻るね、まだちょっとキツいわ……。」
「ウコン飲む?後で買っとくけど。」
「大丈夫!それじゃまた明日ね!」


工廠を出れば、丁度夕日が通り道を包む。
そしてそれに目を細めながら、彼女は黙々と寮へと歩き始めた。


「ばーか……。」


ふとこぼしたつぶやきは、カラスの声に掻き消され。
とぼとぼと歩く彼女の目には、西日が少しだけ沁みたのであった。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
644Res/552.40 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice