275: ◆FlW2v5zETA[saga]
2016/09/13(火) 08:04:04.43 ID:khV+Eq69O
「……ユ….さん!?……ユウ!」
「…………ケイ、ちゃん……?」
北上が意識を取り戻した時、そこは元いた突堤だった。
星々も海も、変わらずそこにある。
首同士を繋ぐマフラーも、そのままだ。
先程と変わった事と言えば、肩の疼きが消えた事と。
早鐘を打つ心臓と、震える手。
そして。
初めて、名前を呼び捨てで呼んでもらえた事だった。
「大丈夫ですか!?いきなり震え出したからびっくりしましたよ…。」
「……ケイちゃんさ。今、ユウって呼んだ?」
「へ?ああ、相当焦ってましたからね…本当大丈夫ですか?医務室行きます?」
「ううん、大丈夫だよ。だからさ…。」
体が軋みそうなほど強く、そして深く。
北上は、何かに縋り付くようにケイに抱き付いていた。
ぐすぐすと、胸元からは彼女の嗚咽が漏れる。
それを受け止めるように、ケイは優しくその肩を包んでいた。
「……ねえ、ユウって呼んでよ。もっかいだけでいいからさ。」
「……ユウ。」
「うん……ありがと…。」
“クリスマスなんて、ここじゃ無縁だって思ってたけど…ちょっと早いプレゼント、もらっちゃったなー…。
ケイちゃん、何も出来なくてごめんね。
いつかさ…おっきい幸せあげるから。だからずっと……。”
会話も途切れ、北上はただ、ふたりの命を感じていた。
ケイのぬくもりと、心臓の音と。
そして次第に落ち着きを取り戻す、自身の心臓の音。
辺りに響くのは、さわさわとさざめく潮風の音のみ。
その音はふたりを。
優しく。そして哀しげに包んでいた。
644Res/552.40 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。