321: ◆FlW2v5zETA[saga]
2016/09/27(火) 00:20:18.44 ID:WF6dBkOu0
「ただいま……。」
はは…クセなんて、簡単には直らないもんだねー。
今は誰も返事なんか、しないけど。
あの事件の後、アタシは逃げるように隣の県に引越して、アパートを借りた。
敷礼不要、保証人不要。1Kユニットバス、人死にじゃない心理的瑕疵あり。
ちょっと歩けば風俗街な、栄えてる市街の隅にある住宅地。
身寄りの無いアタシが借りられたのは、そんな荒れた場所の一室だった。
多少下りた遺産をやりくりして、暇潰しにコンビニのバイトもして。
気晴らしになるかと思ってバイクの小型も取ったけど、バイク本体までは、買う気にならなかった。
だって今はもう、別に行きたい所なんて無いし。
ずっと欲しかったはずの免許には、マグロみたいな目ぇした、クマのひどい顔が載っててさ。何だかなー、って。
高校の編入手続きは、取らなかった。
どうせ逃げた先でも、何処から来たかと、肩の傷でさ。大体事情なんてバレちゃうんだから。
…好奇の目や同情なんて、向けられたくもなかった。
バイトから帰って、コートを乱暴に脱ぎ捨てて。
アタシが真っ先に向かうのは、タンスの上に作った、仏壇代わりのスペース。
その上には小さな遺影が3つと、小さくなったみんなのいる箱が3つ。
今日も、お線香をあげなきゃ。
部屋の右側の壁からは、よくわからない言葉と、いつもの喘ぎ声。
左の壁からは、いつもの人を殴る音と、怒鳴り声。
左の方は、「やめて」って女の声がして。
右側の喘ぎ声は、何だか悲鳴みたいに聞こえて。
うるさいなぁ、だから何なのさ。アタシの暮らしには関係ないよ。
まぁ、いいや…こうしてみんなに手を合わせてる時だけは、静かな気持ちでいられるんだ。
はーあ、テレビでも見るかぁ…。
644Res/552.40 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。