過去ログ - 北上「離さない」
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344: ◆FlW2v5zETA[saga]
2016/10/06(木) 04:45:57.71 ID:FtLTPb5v0

「ケイくん!初詣寄ろうよ!」
「ととっ…おいバリさん、引っ張んなって。せっかくだし行っちゃうかー?」
「えへへ、じゃあ決まりー!」


そうだ、ならば少しでも笑わせよう。
そう思い、彼女はケイの袖を引いて神社へと向かって行く。

会場近くの神社は、市内で最も大きな神社でもある。
まだ比較的多い参拝客の中を、二人は本堂へ向けて歩いていた。
賽銭と拝礼を済ませ、しっかりと願掛けをする。
夕張はちらりと、神妙な面持ちで手を合わせるケイの姿を横目で見ていた。


“何お願いしたのかな……まぁ、きっと私と似たようなもんだよね。言葉だけは。”


“みんな平和に、幸せに生きられますように”、と言うのが彼女の掛けた願い。
それは、自分も含めた全てと言う意味でだ。広義の意味では、彼女の恋も含まれたもの。
しかしケイの方は恐らく、『戦争の勝利』と言う、もっと具体的な願いであろう。

『その願いに、彼自身の未来や幸福は含まれているのだろうか?』

そう思うと、夕張の胸はズキリと痛んだ。

そして彼が礼を解いた時。
夕張の細い手は、彼の袖ではなく、寒さで冷えた手を掴む。


「ケイくん、おみくじ引こうよ!」
「走んなって、石段落ちるぞー。」


隣の販売所へ彼の手を引き、触れていたのは僅か数秒の事。
それでも夕張の胸は、それだけで暖かかった。

帰省した日の駅のような冷たさは、そこにはもう無かったのだから。





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