604: ◆FlW2v5zETA[saga]
2017/03/28(火) 03:28:10.77 ID:T7wuw/an0
硝煙が立ち上り、そこから数秒。
どさりと、静かに、そして重く物音が響いた。
1秒、2秒。続いて、3秒目。
その静寂を経て、ようやく目の前の出来事に、青年が声を上げる。
「………ユウ!!!」
彼女の本当の名を叫んで駆け寄り、彼の目に入ったのは。脇腹から血を流し倒れる北上の姿。
息は荒く、黒い服越しでもはっきりと分かる出血が、容赦なく現実を突き付けていた。
本来であれば素人の、ましてや薬の副作用で朦朧としていた彼の狙撃など、せいぜい威嚇射撃で終わるはずだった。
だが、北上は言ってしまえばその道のプロだ。
彼女は発射の瞬間、まるで愛しい者を抱くかのように弾道が自らを貫く軌道へ立ち、両手を広げていた。
彼が愛して止まぬ、愛らしい笑顔を向けて。
「北上さん!」
「ユウ!しっかりしろ!!」
「あはは…ケイちゃん……起きちゃったの…?」
「お前…何で自分から……。」
「……嬉しいなぁ、やっとタメ口きいてくれたね……。
いいんだよ、これで…アタシ達のやり取りさ…聞こえてたったしょ……?
ケイちゃんを…アタシから守るには……これ、しか……無いんだ……アタシは…きっと君を殺しちゃう、から…。」
「……馬鹿野郎!生きてたから出会えたんだって、お前が言ったんじゃねえか!」
「……あったねー、そんな事…。
アタシ、ケイちゃんにまた会えて、本当に嬉しかったよ……生きてて良かったって、思えた…。
……アタシは…馬鹿なんだ……。
誰にも、君を渡したくなかった……でも、嫌われたくなくて…本当のことも、言えなかった……。
みんな死んじゃってから…ずっと、寂しかったんだ…ひとりぼっちで、寒くて……ケイちゃんだけだよ、あっためてくれたのは…。そんなのさ…君に、寄っ掛かってるだけなのに……。
ケイちゃんは幸せに、自分の人生を生きて……それが一番いいんだ……アタシ達の為に、仇なんて討たなくてもさ…。」
抱き上げるケイの腕を伝う血は、次第に冷たさを増していた。
二人にとって、この冷たさは覚えがある。
死の温度。
かつて嫌という程曝された、終末の冷たさ。
それが今、溢れた北上の血液によって、ケイへと伝っていく。
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