70: ◆FlW2v5zETA[saga]
2016/07/12(火) 05:00:18.02 ID:jl9oy6I4O
そして開かれた画像フォルダには、今まで何枚も撮ってきた写真が収められていた。
からかっては困り笑いをする顔や、工廠の前で誇らしげに笑う顔の彼。
彼に送り付けようと撮った、私服姿で可愛く映ろうと工夫を重ねてみた写真。
そして何度となく二人で撮った、様々な場所や季節の写真。
その時々、二人は常に笑顔だった。
しかし今の北上は、それとは正反対の顔を浮かべている。
不意に不快な疼きを感じ、彼女は自身の胸へと手を伸ばす。
ちょうど肩から片方の乳房へと走るそれは、彼女にとっては、何よりも生々しく存在を示すもの。
起き上がり、Tシャツとブラジャーを脱いで鏡に向き合えば。
そこには先程の疼き通りに、痛々しく跡を残す傷が走っていた。
そして鏡の中の彼女の瞳は。
どこまでも暗く、生気のない目をして。
鏡の隣、中ぐらいのタンスの上。
視線をそこに合わせれば、その上にはとある写真。
そこに写るのは、まだあどけない少女と、誰かに似た面影を宿す少年と。
そしてもう一人、その中では最も幼い少年が写っていた。
写真の端は焦げ跡や破れが目立ち、所々、汚れもまだ残っている。
「…………………。」
疼きが収まると、無言のまま服を着替え直し、彼女は再びベッドへと潜った。
思わず手に取った猫のぬいぐるみを、その中で強く抱き締める。
しかし彼の肩を重ねるにはあまりに小さいそれは、却って彼女の孤独感を、より現実のものとして実感させるばかりだった。
震えが、止まらない。
堪らず手を伸ばしたイヤホンを耳にはめ、ポータブルプレイヤーの再生ボタンを押す。
流れてくる歌声と言葉に、気持ちを少し吐き出せたような気がして。
彼女はようやく、少しずつ眠気を手に入れる事が出来た。
音楽も止め、再び彼女の耳には空気の音だけが響く。
しかしまどろみとその音の中で思うのは、やはり彼の背中のぬくもりだった。
“ケイちゃん……明日は、話せるよね?”
一抹の寂しさと体の寒気に孤独を感じながら、彼女はようやく眠りへと落ちた。
その夜彼女が見た夢は。
決して、明るいものと呼ぶ事は出来なかった。
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