8:名無しNIPPER[saga]
2016/07/09(土) 00:37:40.68 ID:Px08eZlJ0
☆
机の上にわざとらしく散らばった紙の束を見たとき、その変わらなさに呆れてしまった。
休日だというのにスーツのような服で喫茶店にいる姿は周りから浮いていて、サイズの合っていないTシャツを着ている女の子が向かい合わせに座れば、怪しげなものになるかなと考えたりもした。
だからこそ、彼が尋ねたこと……いや、冗談か。とにかく、それは杏の中にすっと溶け込むものじゃなかった。
反芻すればただの社交辞令のようなもののはずなのに、その言葉が彼の口から出たと思うとたちまち意味は朧げになっていく。
「出来たよ、彼氏」
とりあえず嘘をついてみた。
大学では男の知り合いもそれなりにいるけど、誰もが杏の友人の彼氏とかで、とてもじゃないけど杏自身の彼氏なんてものは想像できない。
入学当初に知り合った彼女達が一年も経たないうちに全員彼氏を作ることに成功している事実は、どこか現実味がないように思う。
彼は「よかったな」と、自分から質問したくせに素っ気ない言葉を返し、空のコーヒーカップを煽ろうとした。
全く、慣れないことをしなければいいのに。だから動揺してしまうんだ。
それに、そういうのはそっちの方がちゃんと考えたほうがいい時期に来ているのを理解した方がいいんじゃないか。
そういえば彼氏だかなんだかのお話で、最近ポストに結婚式の招待状が届いていたことを思い出す。
それはかつての事務所の仲間から送られてきたもので、送り主は意外な人物だった。
当時、杏は彼女のことをある意味で一番結婚とは程遠い人だと考えていたけれど、その招待状に載っていた二人の名前を並べて見たとき、納得するものもあった。
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