過去ログ - 北条加蓮「モノクロに差す、薄明の光彩」 -SS速報VIP

過去ログ - 北条加蓮「モノクロに差す、薄明の光彩」

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1: ◆5F5enKB7wjS6[saga]
2016/07/09(土) 15:21:47.31 ID:aStkYJ5sO

「――うあー、疲れたぁ～……」

ファミレスに入るなり、李衣菜は4人掛けの席にどっかり座ってため息を吐いた。

隣に色んなブランド服の紙袋を置いて、腕を振ったり指をにぎにぎさせてる。

「ふふっ、荷物持ちお疲れ～。いやー助かっちゃったなー」

「はぁ、買い物付き合ってってこういうことだったの……？　自分の分くらい持ちなよぉ」

ほっぺを膨らませてアタシを睨んでくるけど、そんなの全然怖くない。むしろもっとイジメたくなっちゃったり。

「んー、どれ食べよっかな～♪」

「ちょっとー、聞いてるの～？　んもー……」

ジト目の向こう側には、しょうがないなぁって呆れと優しさが滲んで見える。

その優しさに、アタシは甘えてるのかも。なんて。

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2: ◆5F5enKB7wjS6[saga]
2016/07/09(土) 15:23:23.12 ID:aStkYJ5sO

「いつもこんなに服買ってるの？　よくお小遣いもつね……」

「ううん、普段はこんな買わないよ。今日は便利なのがいるし、調子に乗っちゃった」

3: ◆5F5enKB7wjS6[saga]
2016/07/09(土) 15:24:41.23 ID:aStkYJ5sO

こんなのを相手してるくらいなら、もっと他の子と遊べばいいじゃん。

買い物付き合ってって言ったらふたつ返事で付いてきてさ。

4: ◆5F5enKB7wjS6[saga]
2016/07/09(土) 15:27:09.78 ID:aStkYJ5sO

「――んーでもさ、今日は私も楽しかったよ。加蓮ちゃんのセンス、見習わないとなぁ」

ずごご、とジュースを飲み干して、アンタはまたそういうことを言う。

5: ◆5F5enKB7wjS6[saga]
2016/07/09(土) 15:29:26.91 ID:aStkYJ5sO

「はぁ」

「んぇ？　どしたの、ため息なんか吐いて」

6: ◆5F5enKB7wjS6[saga]
2016/07/09(土) 15:31:00.67 ID:aStkYJ5sO

「…………」

「…………」

7: ◆5F5enKB7wjS6[saga]
2016/07/09(土) 15:32:50.45 ID:aStkYJ5sO

「……ね、この前の話なんだけどさ」

しばらくそのままでいたら、不意に話を振られた。頭だけ動かして続きを促す。

8: ◆5F5enKB7wjS6[saga]
2016/07/09(土) 15:34:24.63 ID:aStkYJ5sO

「……そんなこと言った？　アタシいつもてきとーだから、いちいち覚えてないんだよねー」

「うん。正確には『昔っからそう』って言った」

9: ◆5F5enKB7wjS6[saga]
2016/07/09(土) 15:36:44.79 ID:aStkYJ5sO

「ずっと引っかかってたんだ。一緒にお仕事し始めたのも最近だし、そもそもアイドルになって初めて会ったんだし」

「そ。李衣菜の言うとおり。アタシら、あれが初対面だったでしょ」

10: ◆5F5enKB7wjS6[saga]
2016/07/09(土) 15:39:23.87 ID:aStkYJ5sO

「それで……私が今住んでるとこに引っ越す前、よく行ってた公園でさ」

いつもと同じ、なんにも考えてないようなへらっとしてればいいのに。

11: ◆5F5enKB7wjS6[saga]
2016/07/09(土) 15:40:53.78 ID:aStkYJ5sO

―――

12: ◆5F5enKB7wjS6[saga]
2016/07/09(土) 15:42:45.63 ID:aStkYJ5sO

ある日、担当のナースさんにわがままを言って、その公園に連れて行ってもらったことがある。

柔らかい日差しにあっためられたベンチに座って、仲良く遊んでる同年代の子たちを眺めて。

13: ◆5F5enKB7wjS6[saga]
2016/07/09(土) 15:44:05.16 ID:aStkYJ5sO

「あ……え、と。あの、わたし……」

「わたし、いまきたとこなの！　みんなはほかの子とあそんでるし、ねっ」

14: ◆5F5enKB7wjS6[saga]
2016/07/09(土) 15:45:15.16 ID:aStkYJ5sO

ナースさんは……やっぱり首を振ってる。無理を言って連れてきてもらった以上、さらにわがままを重ねるわけにはいかなかった。

「おねーさん、もしかしてナースさん？　この子とあそんでいいですかっ？」

15: ◆5F5enKB7wjS6[saga]
2016/07/09(土) 15:46:52.00 ID:aStkYJ5sO

「――よーし、いっぱいあそぼーっ！」

「あうっ、ま、まって……！」

16: ◆5F5enKB7wjS6[saga]
2016/07/09(土) 15:49:14.56 ID:aStkYJ5sO

――楽しい時間はあっという間に過ぎ去っていく。

「うー、いっぱいあそんだー♪　ね、たのしかった？」

17: ◆5F5enKB7wjS6[saga]
2016/07/09(土) 15:50:42.05 ID:aStkYJ5sO

「……あっ。おなまえ！」

「え？」

18: ◆5F5enKB7wjS6[saga]
2016/07/09(土) 15:52:07.63 ID:aStkYJ5sO

「えと、えっと……」

まごつくアタシを急かすでもなく、ただ見つめて待ってくれた。

19: ◆5F5enKB7wjS6[saga]
2016/07/09(土) 15:53:24.08 ID:aStkYJ5sO

――夕闇に溶ける影が長く伸びて、お別れの時間が迫ってくるのを感じる。

見守っていてくれたナースさんが歩み寄ってきて、「そろそろ……」と声を掛けてきた。

20: ◆5F5enKB7wjS6[saga]
2016/07/09(土) 15:56:53.57 ID:aStkYJ5sO

思わず抱きついて……少しだけ泣いた。

たった1日遊んだだけなのに。

21: ◆5F5enKB7wjS6[saga]
2016/07/09(土) 15:58:17.57 ID:aStkYJ5sO

――結論から言えば、その後約束が守られることはなかった。

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