1: ◆hxGgtPv0f.[sage]
2016/07/22(金) 18:23:52.89 ID:N7BH6Wdqo
海でクラゲをつかまえた。
本当は逃がしてもよかったのだが、バケツに入れて持ち帰ることにした。
突然クラゲを飼い始めた私に、家人は困惑した。
「よりにもよって、どうしてクラゲなんて飼おうと思ったの?」
「……わかんない」
私の心はクラゲのように脆いので、私でさえも触ることはできない。
だから私は、私の心をせめてこの目で見たいと思い、それをクラゲに仮託したのだ。
「よろしくね」
私の声を聞くと、クラゲの傘が、嬉しそうにフワリと膨らんだ。
名前は何にしようかな。
クラゲの英名は……ジェリーフィッシュだったかな、たしか。
「ジェリーちゃん」
こうして、ジェリーちゃんと私は友達になった。
内浦に越して間もない私にできた、初めての友達だった。
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2: ◆hxGgtPv0f.
2016/07/22(金) 18:24:27.31 ID:N7BH6Wdqo
そこで私は、親愛なるジェリーちゃんの飼育に全力を尽くすことにした。
エアポンプを設置し、人工海水を作ってこまめに水を換えた。
水温計を見て、温度調整にも細心の注意を払った。
3: ◆hxGgtPv0f.[sage]
2016/07/22(金) 18:25:19.26 ID:N7BH6Wdqo
生き物を飼うのに消極的だった私が、どうしてここまでクラゲの飼育に情熱を傾けたのか、今でもよく分からない。
おそらく当時の私は、自分の世界を無くしてしまって、それを一から創造せねばならないところまで追い込まれていたのだ。
4: ◆hxGgtPv0f.[sage]
2016/07/22(金) 18:25:59.99 ID:N7BH6Wdqo
別に自分の境遇が特別だというつもりはない。
誰にでも、天地創造をしなければならないお年頃がいつか訪れる。それだけの話だ。
「海あれ」
5: ◆hxGgtPv0f.[sage]
2016/07/22(金) 18:27:13.89 ID:N7BH6Wdqo
梨子 「ジェリーちゃん」
梨子 「何だい、梨子ちゃん」
梨子 「住み心地はどうかな」
6: ◆hxGgtPv0f.[sage]
2016/07/22(金) 18:27:54.10 ID:N7BH6Wdqo
梨子 「ふふふ、ヘンなこと言うのね、ジェリーちゃん」
梨子 「どうして?」
梨子 「だってこのアクアリウムには、あなたしかいないのよ」
7: ◆hxGgtPv0f.[sage]
2016/07/22(金) 18:29:51.69 ID:N7BH6Wdqo
梨子 「自分と友達になってから、外の世界に友達をつくりにいけばいいじゃない」
梨子 「外の世界って、どこにあるの?」
梨子 「この水槽の外にあるんだよ。
8: ◆hxGgtPv0f.[sage]
2016/07/22(金) 18:30:50.84 ID:N7BH6Wdqo
梨子 「そんなこと、いったい誰が決めたの?」
梨子 「あなたを捕まえて閉じこめた、この私が決めたのよ」
梨子 「そんなのひどくない?
9: ◆hxGgtPv0f.[sage]
2016/07/22(金) 18:31:47.16 ID:N7BH6Wdqo
それから間もなく、春休みが終わり、新学期が始まった。
着慣れない制服を身につけて自分の部屋を出る前に、私は水槽の傍で立ち止まった。
梨子 「ねえ、梨子ちゃん」
10: ◆hxGgtPv0f.[sage]
2016/07/22(金) 18:32:39.68 ID:N7BH6Wdqo
梨子 「そんなことはないよ。
新しい靴を履いて、新しい制服を着て、新しいバスに乗って、新しい友達をつくりに行くんだよ」
梨子 「それでも、どこに行ったって、おんなじなのよ」
11: ◆hxGgtPv0f.[sage]
2016/07/22(金) 18:33:31.89 ID:N7BH6Wdqo
梨子 「そんなことないよ。
ピアノが弾けなくても、梨子ちゃんのことを好きになってくれる人はいるよ」
梨子 「そんなこと、私は信じないわ」
12: ◆hxGgtPv0f.[sage]
2016/07/22(金) 18:34:02.77 ID:N7BH6Wdqo
梨子 「……うるせえ、クラゲ!」
梨子 「言いやがったな、このヒトデナシ!」
梨子 「ヒトデじゃねえ、クラゲだ!」
13: ◆hxGgtPv0f.[sage]
2016/07/22(金) 18:34:30.97 ID:N7BH6Wdqo
こうして私は、何とか遅刻せずに学校に行き、輝かしい転校生デビューを飾った。
輝かしいというのは、ちょっと語弊があるかな。
別に私は、自分で輝いたわけじゃないから。
14: ◆hxGgtPv0f.[sage]
2016/07/22(金) 18:35:34.55 ID:N7BH6Wdqo
ただ、東京から来たという飾りに、ちょっとみんなが関心をもってくれただけだ。
私の中には、発光物質なんてありはしないのだ。
クラゲじゃあるまいし。
15: ◆hxGgtPv0f.[sage]
2016/07/22(金) 18:36:19.99 ID:N7BH6Wdqo
そういえば、私が自己紹介をしたあとで、目を輝かせて私のところに来てくれた人達がいたっけ。
名前は……そうそう、千歌ちゃんと曜ちゃんだ。
千歌 「梨子ちゃん、はじめまして!
私の名前は、高海千歌です!」
16: ◆hxGgtPv0f.[sage]
2016/07/22(金) 18:37:03.29 ID:N7BH6Wdqo
千歌 「えへへ、それもそうだね。
でも、何だか大人っぽい雰囲気だね。
私なんか、曜ちゃんと一緒に海で遊んでばっかりだから、いつまでたっても子供っぽいままなんだもん。
あ、曜ちゃんっていうのは私の友達で……おーい、曜ちゃん!」
17: ◆hxGgtPv0f.[sage]
2016/07/22(金) 18:37:49.35 ID:N7BH6Wdqo
曜 「あはは、それもそうだね。
ねえねえ、いつからこっちに引っ越してきたの?」
梨子 「一週間くらい前かな」
18: ◆hxGgtPv0f.[sage]
2016/07/22(金) 18:38:27.30 ID:N7BH6Wdqo
千歌 「ふふふ、梨子ちゃん、おもしろいことを言うんだね!
海なんだから、大きいに決まってるじゃない。
大丈夫、大丈夫。
安全に気をつければ、入っても怖くないよ」
19: ◆hxGgtPv0f.[sage]
2016/07/22(金) 18:39:31.49 ID:N7BH6Wdqo
曜 「そうだよ、千歌ちゃん。
梨子ちゃんはそんなオテンバなことせずに、もっとこう、おしとやかに休日を過ごしてるんだよ。
ねえ、梨子ちゃん?」
梨子 「まあ、おしとやかというほどではないけど」
20: ◆hxGgtPv0f.[sage]
2016/07/22(金) 18:40:06.30 ID:N7BH6Wdqo
それを聞いた千歌ちゃんの目は、さっきよりもいっそう輝いた。
千歌 「おおお、これは奇跡だよ!
ねえ梨子ちゃん、私たちと一緒に、スクールアイドル、やってみない?」
21: ◆hxGgtPv0f.[sage]
2016/07/22(金) 18:40:41.48 ID:N7BH6Wdqo
梨子 「どんな歌で?」
千歌 「それはこれから、私たちが作るんだよ!」
梨子 「へー、すごいなあ。
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