113: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/17(水) 11:31:31.72 ID:90KdAnqB0
俺たちの事情など関係ないように、定例ライブは幕を上げた。
客席はケミカルライトによって燦然と輝き、アイドルの歌声やダンスによって波打つ。きっとステージから眺めれば光の海に見えるだろう。
ステージはさらに煌びやかだ。ライトによって照らされ、アイドルによって色づけられていく。
しかし、華やかなステージとは打って変わって、ステージ裏ではスタッフたちが慌ただしく駆け回っていた。裏側は意外とアナログなのだ。
出番は着実に近づいていた。黒と白のコントラストの映えるセパレートタイプの衣装に身を包んだ奏に付き添って、ステージ袖に待機。
湧き上がる歓声が遠くに聞こえる。なんとなく、現実味がなかった。
「プロデューサーさん、手……ぎゅっ。人の温度もたまにはイイでしょ?」
唐突に、隣りに立っていた奏に手を握られた。心なしか震えているように感じる。
俺は優しく握り返す。
「緊張してるの」
「してないと思う?」
「まあ、するよな。俺もしてるもん」
「知ってる。さっきから険しい顔してるわよ」
「格好いいだろ」
「ええ、黙ってたらそこそこイケてるわね」
「奏は綺麗だよ」
「もうっ……、平然と言うんだから」
こんな軽口でも多少は緊張を和らげる効果はあるようだ。奏はふふっと笑みをこぼした。
「まあ、大丈夫だよ。心配する必要はないさ」
「珍しく、楽観的なことを言うのね」
「楽観なんてしてない。……そうだな、言わぬが花と言うけれど、言葉にしないと伝わらないこともあるよね」
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