29: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/07/30(土) 03:57:06.62 ID:9se+2GXe0
速水さんはよろしくお願いしますと軽く会釈した。多少緊張している様子だった。彼はおうと気前よく返事した。
「にしても、まさかお前がプロデューサーになるとはね」
「自分でも意外だよ。本当はやる気なかったんだけど……」
「みんなもそう思ってたぜ。千川さんなんて未だに不満そうにしてるし」
「まじかよ」
ここのところ忙しくて千川さんとは顔を合わせていなかった。最後は研修初日だったか。ろくに現状の説明もできていないし、やっぱりまずいよなぁ。
「ああ、事務員たちはストッパーがいなくなったと戦々恐々らしい」
無言でキーボードを打ち続ける同僚たちが目に浮かんだ。想像のなかの同僚はみな死んだ目をしていた。南無三。
「ねぇ、千川さんってちひろさんよね。私には優しい印象しかないけれど、プロデューサーさんの前では違うの?」
「せんかわさんはやさしいよ」
俺と彼の言葉は重なる。棒読みだった。
「一体なにがあったのよ……」
悲哀の籠った目を向ける速水さん。俺は口をつぐむ。世の中知らないほうがいいこともあるのだ。
「さあ、そろそろ入ろう」
話題を変えるようにそう言って、彼は背を向けてのしのしと歩き出した。俺たちは彼のあとを追う。
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