3: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/07/28(木) 19:00:05.77 ID:pU98D89e0
振り返った先輩はにこっりと不穏な笑みをたたえて、対面の椅子に腰を下ろした。
不吉な予感がした。
「お前、プロデューサーやってみない?」
「え、俺がですか」
談話室の柔らかすぎる椅子に浅く腰かけた俺は、言葉を理解できず混乱する。
「うん、お前がよければだけど」
「いや、まあ無理ですよね。大体そんな人事、上が認めないでしょ」
そもそも、俺は事務員として入社したのだ。それがいきなりアイドルのプロデュースなんてできるはずもない。
「もし認められてなかったらこんな話を持ちかけてないって。うちのプロダクションは慢性的な人員不足なのだ。まっ嬉しい悲鳴だけどな」
慎ましい胸を張ってふんと自信満々に言ってのける先輩。彼女が誇らしそうなのは貢献しているという自負ゆえか。きっとやりがいもあるのだろう。
しかし、プロデューサーの離職率の高さを考えれば、そう簡単には頷けない。死地に赴くに覚悟は、俺にはまだないのだ。
「だとしても、お断りですよ。めちゃくちゃ忙しいじゃないですか。それに俺の抜けた穴はどうするつもりなんです」
「大丈夫、ちひろさんがなんとかしてくれるってよ。ほらあの人化け物だから」
「わかりました。千川さんによく伝えておきます」
「馬鹿やめろ私を殺す気か」
千川さんは事務員にして様々な実権を握っている謎の女性だ。部長が彼女に頭を下げているのを偶然目撃したとき、入社したての俺は身の振り方を覚えたのだった。
130Res/131.93 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。