58: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/03(水) 17:12:33.51 ID:/HKIoMMy0
「あー! 裏切り者ー! 薄情者ー!」
ロビーへ降りると開口一番、俺は千川さんに非難された。裏切り者とは随分と人聞きが悪い。
「全然顔も見せないで……私はもう用済みですか。遊んでぽいですか」
「やめてくださいよ。めちゃくちゃ見られてるじゃないですか」
「あーあ、捨てられたのかなぁ」
千川さんは嬉しそうに見えた。久々の再会を喜んでもらえると、こちらまで嬉しくなる。
まあ、この女性はこういうときこそ恐ろしくもある。
あるとき千川さんは部長の提出した書類を、軽く目を通したと思ったら目の前でシュレッダーにかけた。笑顔だった。
涙目の部長の姿は今でも忘れない。
もっともあとから確認した限り、部長の提出した申請書は、不備が多すぎてとても話にならなかったのだが。
それにしても、な話である。
「お久しぶりです千川さん。諸々の報告やらなにやら遅れてすいません」
「そんなものはどうでもいいです。それより、慣れなくて大変でしょ、大丈夫? この人にいじめられてませんか?」
千川さんは、俺の斜め後ろでそれとなく気配を消していた先輩を指差した。振り返ると、先輩の顔は青ざめていた。
「まあいじめられてはいませんね。そちらこそ大丈夫ですか?」
「ええ、でも細かい話はお店に入ってからにしましょうか」
異論はないので、俺たちは会社をあとにした。
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