77: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/04(木) 02:40:34.62 ID:pTgjkfxw0
曲が終わっても、誰も言葉を発せなかった。レッスン室には速水さんの息切れだけが聞こえる。
「どうだった?」
ゆっくりと息を整えながら歩み寄ってきた速水さんは、からかうような声音で言った。
俺はおかしくなって噴き出した。
「はは、まだまだだな。まだまだ足りない」
「ふふ、そうね。私もそう思うわ」
「でもよかった。もっと輝ける」
「ええ、そのときのご褒美はキスでいいよ」
「考えておくよ」
和やかな雰囲気だった。それまでの苦しみから解放されたような表情の速水さんを眺めて、俺は少しだけ安堵する。
と、そのとき、隣から奇怪な音が聞こえた。音の正体に視線を向ける前に、トレーナーさんは速水さんに抱きついた。
号泣していた。
「よかった! よかったよぉ!! 奏ちゃんが……こんなに嬉しそうに笑えて……よかった」
嗚咽混じりの言葉はとても優しかった。
速水さんは穏やかな表情でトレーナーさんを抱きしめ返した。
「ありがとう。トレーナーさんにはたくさんお世話になったわね」
「ひとり、ファンが増えたな」
「うん、頑張り甲斐があるわ」
トレーナーさんが泣き止むまでなだめた。
やっと、速水さんはアイドルとして輝き始めたのだった。
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