過去ログ - モバP「速水奏の輝かせ方」
1- 20
78: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/04(木) 02:43:17.74 ID:pTgjkfxw0
 速水さんとレッスン室をあとにする。彼女は歩きながら掌を眺めていた。手応えを確認しているのだろう。

「今日はもう終わりだな。送ろうか?」

「ううん、大丈夫よ」

「そっか。じゃあ、俺はまだ仕事あるからそろそろ行くよ」

 エレベーターのボタンを押そうとすると、速水さんに袖を少しだけ掴まれた。視線を向けると彼女は俯いていて表情は窺えない。

「どうした?」

「プロデューサーさん、ありがとう。本当はあなたもわからなかったのに、私のために色々考えてくれてありがとう。悩んで苦しんでくれてありがとう」

「……感謝されることなんてないよ。これが俺の仕事だ。それに、俺は……」

 速水さんは頭を小さく横に振った。言葉の続きを察しとられたのかもしれない。

「プロデューサーさん言ったよね。なにが活きてくるかわからないって。物事に複数の側面があるって。プロデューサーさんがなにもしてないと思っても、そんなことはないの」

「…………」

「ずっと苦しかった。もがいてあがいて、それでも結果の出ない日々が辛かった。でも、プロデューサーさんと出会ってから些細な会話やたわいのない冗談は、気を軽くしてくれたの。私のために色々と動き回ってくれているのが嬉しかったの。だから、ありがとう。あなたのプロデュースは間違えてないよ」

 速水さんの声は上ずり、肩は揺れていた。胸のうちにある小さな棘が疼いた。

「感謝をするのは俺だよ。ありがとう」

 これ以上うまく言える気がしなくて、俺は黙った。それからしばらくして速水さんとは別れた。

 自分でもよくわからない感情が溢れる。ひとり、トイレで泣いた。嬉しさや安堵、罪悪感のない交ぜになった涙だった。



<<前のレス[*]次のレス[#]>>
130Res/131.93 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice