96: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/15(月) 11:27:35.90 ID:c7loBI3L0
恐るべき魔性である。
努めて茶化すように笑う。
「俺は追うより追われたい派なんだ」
「それはモテる人の発言よね……それともモテるの?」
「さあ、どうかな。……まあ、今は眺めるのに精一杯だから、どちらにせよ関係ないけどね」
「ふふ、プロデューサーさんの視線を奪うのだから、その人はとっても魅力的なんでしょうね」
「ああ、目眩がするほど魅力的だよ」
なにを伝えたいのか迷うほど、すべてが魅力的に見える。
きっと俺には眩しすぎるのだ。だから、見誤るし、こちらの陰を照らし出してしまう。
「眺めているだけじゃもったいないんじゃない?」
「眺めるぐらいがちょうどいいんだよ。お互い、傷つけなくて済むだろう」
「……優しいなぁ。そのせいで傷つく人もいるのに」
ほとんど呟くように言う速水さん。瞳に悲観や諦観はなく、静かな炎がゆらゆらと揺らいでいる気がした。
俺は息を呑む。速水さんは意味深に微笑んだ。
「……ひとりごとよ」
「……俺は、期待には応えられないよ。月を隠す叢雲にはなりたくないんだ」
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