97: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/15(月) 11:29:31.22 ID:c7loBI3L0
「隠されても、月はいつでもそこにあって同じ表情をしているの。裏側はいつまで経っても裏側のまま。
……でも、それって寂しいと思わない? 表はすぐに飽きられて見向きもされず、かと言って裏を見せられもしない。
叢雲でも変化があればまた見てもらえるし、せめてひとりでも裏を知っていてくれれば、救われる気持ちになるかもしれないわ」
「価値観の相違だ」
「見解の相違よ」
どうにも速水さんは諦めてくれない。言いたいことはわかる。しかし、彼女の望みは、俺にはすこし荷が重い。
近づいたって、いいことばかりではないのに。
速水さんは不思議そうに首をかしげた。
「私はプロデューサーさんを知りたいの。知って近づきたいのよ。同時に知ってもほしい。近づいてきてほしい。これってそんなにおかしいかしら」
「おかしくはないかな。俺の問題なだけであってね。まあ、好きにしていいよ。速水さんの気持ちは否定できないし、嬉しいとも思う。ただ、応えるかどうかはべつだけどね」
「ええ、そうするわ。プロデューサーさんを魅了してあげる。余計なことを考えられなくなるぐらいに、ね。ふふっ」
「ああ、楽しみにしてるよ」
もう魅了されてるよ。口には出さない。
強気に微笑む速水さんを眺めて、俺は考える。彼女をもっと輝かせるためにはなにが必要か。
でも、すでに魅力に溢れていて、不足しているとは思えない。あるいは魅了されているからそう感じるだけなのか。
俺は、なにかを間違えているのかもしれない。
◇
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