過去ログ - 梨子「畜犬談」 -SS速報VIP

過去ログ - 梨子「畜犬談」

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1:♯dasgemeine[sage]
2016/08/06(土) 17:03:41.07 ID:NTp8xm9Po
私は、犬については自信がある。
いつの日か、かならず喰いつかれるであろうという自信である。
私は、きっと噛まれるにちがいない。自信があるのである。よくぞ、きょうまで喰いつかれもせず無事に過してきたものだと不思議な気さえしているのである。

梨子「……」

曜　「梨子ちゃん、どうしたの？
　　　早くおいでよ」

梨子「いや、あのね、えーと……何でもないんだけどね。
　　　ただちょっと、犬が」

千歌「ふふふ、だいじょうぶだよ。
　　　しいたけは大人しいから、噛みついたりしないよ！」

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2: ◆ViYQTSOKYg[sage]
2016/08/06(土) 17:08:05.73 ID:NTp8xm9Po
犬は必ず私を噛む。
こんなことを言うと、私の友人の千歌ちゃんと曜ちゃん、ひいては全国の愛犬家の皆さんは、一斉に犬を弁護するだろう。
曰く、「うちの犬は大人しいから、噛みついたりしないよ」と。
しかし、以下の推論を考えてみてほしい。

3: ◆ViYQTSOKYg[sage]
2016/08/06(土) 17:09:40.05 ID:NTp8xm9Po
なるほど、たしかにこの推論は古典的な三段論法の型に則ってはいる。
しかし、前提（1）をよく見てほしい。

大人しい犬は人を噛まない

4: ◆ViYQTSOKYg[sage]
2016/08/06(土) 17:11:19.54 ID:NTp8xm9Po
梨子「……噛むわ」

千歌「梨子ちゃん？」

梨子「私はしいたけに噛まれる……いつかわからないけど、たぶん、絶対」

5: ◆ViYQTSOKYg[sage]
2016/08/06(土) 17:12:35.25 ID:NTp8xm9Po
なるほど、千歌ちゃんによれば、ほかの犬はいざ知らず、しいたけだけは特別らしい。
つまりここで千歌ちゃんは、さきの前提（1）を放棄することによって、推論そのものを放棄してしまったわけだ。
すなわち、千歌ちゃんによれば

しいたけは人を噛まない

6: ◆ViYQTSOKYg[sage]
2016/08/06(土) 17:13:05.74 ID:NTp8xm9Po
梨子「千歌ちゃん、曜ちゃん、目を覚まして。
　　　しいたけは人を噛む。というか私を噛む。めっちゃ噛む」

曜　「えっ！　梨子ちゃん、しいたけに噛まれたことあるの？」

7: ◆ViYQTSOKYg[sage]
2016/08/06(土) 17:14:31.35 ID:NTp8xm9Po
嗚呼、何と恐ろしい提案であろうか。
千歌ちゃんは天使のように無邪気に笑ってはいるが、その実、言っていることは危険きわまりない。
曰く、「しいたけに触ってごらんよ」と。

8: ◆ViYQTSOKYg[sage]
2016/08/06(土) 17:15:42.85 ID:NTp8xm9Po
そんなことをすれば、しいたけは、この場を丸く収めるために悲壮な覚悟で背中を触ろうとする私のほうに向きなおり、
私の手を、雷光一閃、がぶりと噛むに違いないのである。
「うぎゃあああ」という絹を裂くような悲鳴があたりに響き、そこには目を覆わしめんばかりの地獄絵図が繰り広げられることであろう。
それを想像するだけで、私の体は恐怖におののき、私の心は絶望に打ちひしがれるのだ。

9: ◆ViYQTSOKYg[sage]
2016/08/06(土) 17:16:57.69 ID:NTp8xm9Po
では、私はしいたけを触るのをあきらめ、

「駄目ですね、私はこんな畜犬と仲良くしたくはありません。断固拒否です。
　君たちは飼い犬に手を噛まれるまで阿呆のように犬畜生を戯れていたまえ、ハハハ」

10: ◆ViYQTSOKYg[sage]
2016/08/06(土) 17:18:04.34 ID:NTp8xm9Po
嗚呼、しかしこれは何と残酷な対応であろうか。
つまり私は、そんなふうに犬畜生呼ばわりすることによって、今まで人を噛んだことのない善良なる椎茸ちゃんを讒謗するわけである。
いわれのない誹謗中傷は、いつの時代も、言論の自由を脅かしめ、善良なる人および犬の心を傷つける悪行である。
そんな私の冷酷無比なる言葉を聞いた千歌ちゃんと曜ちゃんは滂沱の涙を流し、

11: ◆ViYQTSOKYg[sage]
2016/08/06(土) 17:19:43.61 ID:NTp8xm9Po
さて、ここで私は進退窮まった。
つまり、今の私がとることのできる選択肢は

（A）しいたけに触る
（B）しいたけに触るのを拒否する

12: ◆ViYQTSOKYg[sage]
2016/08/06(土) 17:24:26.98 ID:NTp8xm9Po
かくのごとくディレンマに呻吟する私を心配し、千歌ちゃんと曜ちゃんが私に問いかけてきた。

曜　「梨子ちゃん、どうしたの？」

千歌「何だか難しいことを考えてるようだけど……大丈夫？」

13: ◆ViYQTSOKYg[sage]
2016/08/06(土) 17:26:49.32 ID:NTp8xm9Po
嗚呼、私の友人たちは無邪気でありながら聡明でもあったのだ。
そうか、先刻まで私が迷い込んでいたディレンマは、頭の中だけのものにすぎなかったのだ。
考える人であることにこだわり続けたがゆえに、私は出口のない迷宮に閉じ込められてしまったのだ。
すると、この迷宮から逃れる方法は、今や明らかではないか。

14: ◆ViYQTSOKYg[sage]
2016/08/06(土) 17:27:37.58 ID:NTp8xm9Po
曜　「梨子ちゃんが犬になっちゃった！」

千歌「いったい、どうしてこんなことに……」

曜　「何かよく分からないけど……

15: ◆ViYQTSOKYg[sage]
2016/08/06(土) 17:28:37.62 ID:NTp8xm9Po
曜　「気もちよさそうだね」

千歌「あごの後ろを撫でてもらうのが、特に好きみたいだね」

梨子「くんくん、くうーん」

16: ◆ViYQTSOKYg[sage]
2016/08/06(土) 17:30:32.11 ID:NTp8xm9Po
なるほど、千歌ちゃんと曜ちゃんの言うとおりだ。
ワンちゃんプレイを実行することに躊躇がなかったと言えば嘘になるのだが、やってみたら、意外とハッピーが見つかるものだ。
というか、竜宮城でも天国でも、このようなハッピーに与ることはできないだろう。
これが畜犬の快楽だというなら、私は畜犬で構わない。
いかなる高級な快楽も、曜ちゃんと千歌ちゃんに「よしよし、いいこいいこ」してもらう快楽に比すれば取るに足りないものではなかろうか。

17: ◆ViYQTSOKYg[sage]
2016/08/06(土) 17:31:25.84 ID:NTp8xm9Po
そこまで考えたところで、突如として私の耳に不可思議な声が聞こえてきた。

椎茸（それは違うよ、梨子ちゃん）

梨子（しいたけ！　なぜあなたの声が聞こえるの？）

18: ◆ViYQTSOKYg[sage]
2016/08/06(土) 17:32:41.38 ID:NTp8xm9Po
椎茸（さて、話を戻そうか。
　　　ねえ、梨子ちゃん。君がなぜ変態ワンちゃんプレイに興じることになったのかな。
　　　話の筋を、もう一度よく考えてみるんだ）

梨子（それは……ディレンマを脱するためには、私自身が犬になりきるしかなかったからです）

19: ◆ViYQTSOKYg[sage]
2016/08/06(土) 17:36:15.28 ID:NTp8xm9Po
梨子（でもそれじゃあ、千歌ちゃんと曜ちゃんを悲しませることになっちゃうかも）

椎茸（どうして？
　　　梨子ちゃん、犬が苦手だってこと、二人にちゃんと伝えたの？）

20: ◆ViYQTSOKYg[sage]
2016/08/06(土) 17:37:14.82 ID:NTp8xm9Po
――――――――――――――――――

千歌「あ、梨子ちゃん、目が覚めた？」

梨子「私、寝てた？」

21: ◆ViYQTSOKYg[sage]
2016/08/06(土) 17:39:29.73 ID:NTp8xm9Po
千歌「なあんだ、そうだったのか。
　　　謝ることなんかないよ。
　　　こちらこそ、無理に触らせようとしちゃって、ごめんね」

曜　「そうそう。謝らなきゃいけないのはこっちのほうだよ。

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