5:名無しNIPPER[sage]
2016/08/10(水) 20:13:41.75 ID:/7spWSuao
駅は相変わらず混雑している。俺たちは改札口から少し離れた場所に立って、最後の挨拶をする。
しかし俺は言葉を切り出せずにいた。言葉が見つからないのか、それとも言葉を交わして彼女と別れるのが
嫌なのか。時間だけが少しずつタイムリミットへと迫っていった。
「私……東京の高校に……進学する……」
雪美が少しだけ声を大きくしながら宣言をする。彼女は今十四歳だ。
高校進学というのもそう遠い未来というわけではない。
「そうしたら……Pと一緒に……」
「だめだ」
俺は彼女の言葉を遮る。
「雪美はこの東京で四年間過した。十代の、しかも小学生の頃を含めた四年間というのは雪美が思う以上
に大きな時間だ。あとの中学校生活は当然として、高校も地元のに進学しなさい。両親が寂しがるぞ」
一般的な事を言えば、親からすると刻一刻と成長する自分の娘の姿をその目で見れないのは寂しいもの
だろう。しかし彼女の場合は少し事情が違う。両親は共働きで家を空けることが多く、クリスマスすら
彼女は一人で過していた。寡黙な彼女は胸中の思いを自分のペットにしか明かさず、後になって俺に
その思いを教えてくれた。
連鎖して彼女との思い出が蘇って行く。風鈴の音に耳を澄ます彼女。メイド服を着て、パフェを必死に
なって運ぶ彼女。一緒に初詣に行く晴れ着を来た彼女。ベンチに座り、ハーモニカを練習する彼女。
サンタにお願いの手紙を書く彼女。みんなを応援するため、大きな声を出そうとする彼女。
アイスを頬張る彼女。魂が繋がっているという彼女。迷わないために手を握ってと約束する彼女。
寂しくないよという彼女。
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