過去ログ - 北条加蓮「ねぇ、志希。失踪、しちゃおうか」
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◆Freege5emM
[saga]
2016/08/11(木) 21:25:26.44 ID:/LI5BGHFo
「だって、さ」
これは、ないでしょ。プロデューサー。
プロデューサーが私たちのこと知ってて、あの病院へよこしたのか、どうか。
知ってたのなら趣味が悪い。知らなかったのなら頭が悪い。
ない。ない。とにかく、ない。
ちょっとぐらい姿を消してお灸を据えてやらなきゃ。
私が心中でプロデューサーへ嫌味をボコボコ投げつけてると、志希が私の手を握り返してきた。
「ねぇ加蓮ちゃん。失踪するときってさ、フツーはどこへ向かうか、考えないよね」
「……まぁ、目的地が決まってたら、それは失踪とは言わないだろうね」
「でも、あたしは……目的地を決めずエスケープするときでさえ、あの近くを通るのは避けてた。
さっきまで、その理由を考えてたんだ。何であたしは避けちゃうんだろうな、って。
だって、ママの病気とあの病院には、ぜんぜん因果関係ないのに」
志希は、自分の心のことなのに、不思議そうな口ぶりだった。
そりゃ、理屈の上では、その通りなんだけど……。
「失踪するときは、束縛を離れた自由の身なハズなのに、そこだけは自由じゃない……ヘンなの。
で、加蓮ちゃんは、どう?
病気してた頃のコトは、あまり思い出したくなかったみたいだけど」
……うわぁ。あのときと違って物理的な逃げ場がないのに、
私も志希も、勢い任せに深いところまで突っ込んじゃってる。
過去ってのは、伏せることはできても、無かったことにはできないものなのに。
そういえば、過去から逃げちゃダメって言われたこと、あったっけ……。
「私も、退院以来あそこには行ったことないけど、それは……」
それは……どうしてかな。
「……まぁ、ナースさんに『病院は用もないのに来る場所じゃないよ』って追い出されたし」
「ずいぶん素直で殊勝なんだね」
私は志希の手をつねった。
「いたいっ、いたいよ加蓮ちゃーん……」
「今のはアンタが悪いっ」
まったく……今まで志希のことはよく知らなかったけど、
この子もなかなかクセモノかもね。
「冗談はさておき……本音を言っちゃうとね。私のはたいした理由じゃないと思う。
きっと、入院してた頃の、人生諦めて投げやりになってた自分がスキじゃないだけ」
坊主憎けりゃ……じゃないけど。
自分の過去、特に自分が認めたくない姿については、
それを思い起こさせるものや場所すら避けたくなる。
特に病院は……あそこは無力さにのしかかられることが多いから。
「じゃあ、あたしの話を聞いてなかったとしても、失踪した?」
でも……あそこは私にとって、それだけの場所じゃない。
「私がアイドルに憧れたのは……あの病院のテレビで見てたアイドルの姿からなんだ。
だから……ま、アイドルのお仕事で行くんだし、堂々とあそこに舞い戻るつもり」
「そっか」
志希は、ネコみたいによく動く丸い目を閉じて、しばし沈黙した。
私は手を握ったままにした。離したら、志希がタクシーの中から消えてしまう気がしたから。
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